読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。
連日、身を焦がすような暑さが続く今年の夏だが、少しでも涼しいところに行きたいと東京・奥多摩にある日原鍾乳洞を自転車で目指した。前半は、鍾乳洞に至るまでの道のりをご紹介。
奥多摩の新トンネルでしばし涼む
真夏でもトンネルや洞窟の中は意外と涼しく快適。昨年の夏は東京・武蔵村山市にある自転車道のトンネルを訪れ、つかの間の涼を感じたが、今年は奥多摩にある日原(にっぱら)鍾乳洞に向かった。
地図アプリの履歴によると自分は約8年前にも一度、日原鍾乳洞へ行っているが、そのときは秋か冬の寒い時期で、鍾乳洞も閉まっていて中に入れなかった。そもそも、中に入るつもりもあまりないまま行ったような記憶もある。
当時のことも一度書いたことはあると思うが、時を経て今回はあらためて行ってみることに。とはいえ、自宅を出て鍾乳洞までは約70kmもあるので、それまでは灼熱の中、自転車をこぎ続けなければいけない。涼を求めてという目的からは、少し本末転倒にはなっている。
カンカン照りの日差しの中、しっかりヘトヘトになりながら。まずは多摩川沿いを走る吉野街道を西へ進んで奥多摩町に入り、JR古里(こり)駅付近で青梅街道に合流。しばらく進むと、左折して多摩川南岸道路へ。この道は、青梅街道が災害などで通行止めになったときのバイパスとして2015年までに約7kmの区間が開通。将来的にはさらに東に伸びて、吉野街道とつながる計画があるそうだ。
この道に入ると、すぐ長さ1908mの城山(じょうやま)トンネルが現れる。完成して8年と比較的新しいトンネルで、鍾乳洞とはまったく別物だけど猛暑から逃れられるという意味では自分にとって同様の価値がある。入った直後は全然涼しくないやんと思ったが、後半ちょっと下り基調になってスピードに乗ると、風が涼しく感じられ生き返った心地がした。
奥多摩駅から日原街道を進む
さらにこの先、もう1本ある愛宕トンネルの手前で右折し、JR奥多摩駅前に出る。
過去にも何度か紹介した山小屋風のカッコいい駅舎だ。2019年にリニューアルされ、登山客用の更衣室もあるらしいので、輪行で来る人にもいいかもしれない。最近のアウトドアブームで、駅の周りにも新しいオシャレな店が少しずつ増えているようだ。
ちょうど電車が来たタイミングだったので、多くの観光客が駅から吐き出されていた。外国人観光客の姿も見られる。このあたりで標高約340m。まだ全然暑いけどけど空気がムシムシした感じが薄れ、風も爽やかなになったようだ。
奥多摩駅の先で右折し、鍾乳洞へと続く日原街道に入る。しばらくは旅館や民家などが並んでいるが、数100mも進むと何もない山道に様変わりする。
基本的に日原川に沿った一本道で、緩やかな上り坂が続くがときおり下りや10%近い勾配の区間もある。
この街道を7kmほど進むと、日原トンネルが見えてくる。このあたりで標高550mぐらいあり、このトンネルは入り口から涼しい空気が漂ってくる。
長さ1107mの上り基調のトンネルを抜けて道なりに右に曲がると、斜面に沿って数10軒の民家が立つ日原の集落が見える。ここまで数kmに渡り、人っ子一人住んでいないような山の中を走っていたため、まさに山奥の秘境が目の前に現れたという不思議な感動を覚える。
ここには戦国時代の落ち武者が住み着いたという伝承もあり、最近では台風などで街道が通行止めになり孤立することも数年に一度は起こっている厳しい土地だ。
日原鍾乳洞に到着
集落を抜けてしばらく進むと、鍾乳洞の駐車場待ちの車が渋滞している。なかなかの人気の観光地のようだ。自転車だったので車列の前に行かせてもらい、ようやく日原鍾乳洞に到着。奥多摩駅からは10kmちょっとの行程だった。
入口手前の駐輪場に自転車をとめて、いよいよ鍾乳洞の中へ、というところで続きは次回。
(光石 達哉)