【行ったつもりシリーズ】真夏のひんやり体験!奥多摩の日原鍾乳洞へサイクリング<後編>

真夏でも中の気温は11℃と涼しい日原鍾乳洞。奥には広大な空間が広がっている
(撮影:光石 達哉)

読んでいるうちに行ったつもりになれるかもしれない、プチ旅行の紀行文コラム「行ったつもりシリーズ」。

連日、身を焦がすような暑さが続く今年の夏だが、少しでも涼しいところに行きたいと東京・奥多摩にある日原鍾乳洞を自転車で目指した。後半は、いよいよ日原鍾乳洞の中に潜入する。

 

 

 ほてった体を鍾乳洞で冷却 これが「ととのう」!?

いよいよ鍾乳洞の中へ。入口からは冷たい風がビューッと吹き出している。念のためヘルメットをかぶったまま入場(撮影:光石 達哉)

自転車を降りて、標高630mの山中にある日原鍾乳洞の中へ。シューズはウォーキング用に履き替えたが、念のためというか安全のため、ヘルメットとグローブは着けたまま。そんな格好で鍾乳洞に入っている人は他にいなかったけどね。

日原鍾乳洞は関東随一の規模を誇る鍾乳洞で、都の天然記念物にも指定されている。こういう鍾乳洞は、九州に住んでいた子どものころに山口県の秋芳洞に行って以来だ。ちなみに、公共交通機関で訪れる場合、JR奥多摩駅からバスで30分ほど。車で来ても数十台分の駐車場はあるようだ。奥多摩駅などからレンタサイクルで行くこともでき、電動アシスト付きのe-バイクも借りられる。この日は来場者が多くて車やバスが少し渋滞していたので、自転車だとスムーズかもしれない。

入場料は、大人(高校生以上)900円。今年になって100円高くなったそうだが、日原鍾乳洞のHPにある割引券をプリントして持っていくか、JAF会員証提示で100円割引になる。

券売所で入場券を買って、沢にかかる小さい橋を渡ると日原鍾乳洞の入り口だ。入口からは冷たい風が勢いよく吹き出している。洞内の気温は年間を通して11℃とのこと。夏は涼しいが、冬は逆に暖かいそうだ。寒がりの人は夏でも長袖の上着を持って行った方がいいだろう。

自分は荷物が増えるのが嫌で何も持ってなかったので、半袖半パンの自転車用ジャージのまま入った。涼しさを求めてやってきたとはいえ、ちょっとひるむし、他の観光客からも「寒くないですか?」と心配された。しかし猛暑の中、70kmぐらい自転車で走ってきて体の芯までほてっていたので、鍾乳洞内の冷気にさらされているとフワッと気持ちがいい。最近流行りのサウナは個人的にちょっと苦手だけれど、この感覚が「ととのう」なのかなとも想像したりする。

鍾乳洞の中に入ると風もなく、寒さにもすぐに慣れた。洞内は坂道や階段の上り下りもあり、ずっと体を動かし続けているので、それ以上体が冷えることもなく快適だった。

 

 死後の世界との境界線?

「蓮華岩」「船底岩」「ガマ岩」など、何かの形に見える岩がいくつかあるが、パッと見はよくわからない(撮影:光石 達哉)

この日は激混みというほどではないが、途切れることなく来場者がいる感じだ。狭いところで立ち止まって写真を撮っていたりすると、後ろが渋滞するのがやや気になる感じだ。奥多摩駅同様、ときおり英語や聞き慣れない言語が聞こえてきて、外国人観光客も多く来ているようだ。

 

弘法大師学問所のそばにある「水琴窟」。おそらく中央の円形の器に水滴がしたたり落ちている音が、キン、キンと洞内にかすかに響いている(撮影:光石 達哉)

通路はほぼ平らに整備されていて、ゴツゴツした岩の上を歩くことはないが、床も天井も壁も濡れているため滑りにくい靴は必須だ。時折、滴も垂れてくるので。帽子などがないとヒヤッとするかもしれない。頭をぶつけそうなところもあるので、ヘルメットも役に立つ。

洞内は立体的に複雑な構造になっているので、こことここは繋がってるのか、ここはさっき通ったところの上だよな、とちょっとした発見もある。とはいえ、ずっと照明が照らされていて、順路も分かりやすく示されているので迷うことはない。

 

「弘法大師学問所」。弘法大師・空海が修業に訪れたという伝説が残る場所は日本中にあるが、ここにも来たのだろうか…?(撮影:光石 達哉)

しばらく進むと、「弘法大師学問所」と呼ばれる小部屋のような空間がある。ここで弘法大師・空海が修業したという伝説があるようだ。日原鍾乳洞は鎌倉時代から修験道の聖地とされ、宗教的にも重要な場所であったという。

 

洞内には「三途の川」と言う小さな沢が流れている。昔の人は、この鍾乳洞に死後の世界をイメージしていたのか(撮影:光石 達哉)

こちらは「さいの河原」。積み上げられた石が、その名を物語っている
(撮影:光石 達哉)

「三途の川」、「さいの河原」と名付けられているところもあり、昔の人は暗黒の鍾乳洞の中を死後の世界との境界線のように感じていたのかもしれない。

一番奥まで来ると狭い通路から一転、広大な空間が広がっている。照明が青、赤、緑色と変化し、幻想的というか”映え”な雰囲気をつくり出していて、多くの人が写真を撮っている。

 

鍾乳洞の奥に広がる空間。さらに奥の階段の上が「死出の山」(撮影:光石 達哉)

「死出の山」の頂上には「縁結び観音」がある。名前的にはちょっと場違いな気もするが、鍾乳洞の奥では何か畏敬の念を感じる(撮影:光石 達哉)

さらにその奥、階段を数十段上る「死出の山」という高台がある。その名とは裏腹にここからの眺めもすばらしい。

 

 帰路は鍾乳石を見ながら階段を進む

帰路は、約60年前に発見された新洞を通る。左に見えるような急な階段を上り下りする。濡れているので要注意(撮影:光石 達哉)

帰りは、「新洞」と呼ばれる別ルートを通る。ここは昭和37年に発見された新しいエリアで、急な階段を何度か昇り降りする。

 

新洞はニョキニョキと伸びている鍾乳石が多く見られた。これらを仏に見立てて拝んだりもしていたようだ(撮影:光石 達哉)

石柱や石筍といったいわゆる鍾乳石は、新洞の方が多いようだ。鍾乳洞は地下水が石灰岩を侵食してできるというが、日原はこれまで見てきたように石灰岩の鉱山や岩山などもあり、鍾乳洞ができる条件がそろった地質なのだろう。

見学可能なエリアは一番奥までで350mほどだが、ゆっくり見て回って1時間弱は楽しめた。ちなみに鍾乳洞の中は携帯電話はもちろん圏外だが、僕の携帯は入口周辺も圏外だった。集落まで戻ると、電波が通じていた。

外に出ると山の中とはいえ洞内とはかなりの気温差があり、モワッとした熱気に包まれる。しかし、さっきまでカンカン照りだった空は雲に覆われていて、ポツポツ雨が落ちてきた。と思ったら、ザーッと降り出す瞬間もある。帰りは日原の集落をちょっと見て回ろうかなと思ったけれど、雨が激しくなる前に急いで帰ることに。しかし、日原トンネルを抜けると雨はやみ、路面もほぼ乾いていた。山の天気は変わりやすいとは、よく言ったものだ。

帰りはしばらく下りなので、奥多摩の涼しい風を浴びながらハイペースで進む。下界というか標高の低いところまで降りてくると空気もムシムシしてくるが、8月に入って夕方の時間帯はちょっと過ごしやすくなった気もする。

夏後半もまだまだ暑い日が続きそうな予報なので、自然の涼を感じつつ、日常とかけ離れた景色も楽しめる日原鍾乳洞を旅先の候補に加えてみてはどうだろう。

 

(光石 達哉)

 

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