【連載「生きる理由」121】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「45歳のトレーニング」の話~自主トレ考察

夫人が設立した道場「EDGE&AXIS」の設立記念タオルを持つ内柴氏(提供:合同会社EDGE&AXIS)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は、「「45歳のトレーニング」の話。


2023年6月17日に45歳を迎えた内柴氏は現在、
早朝に自身のトレーニングを続けている。
仕事との兼ね合いで「もう少しやりたい」と思いながら、
現役時代のトレーニング、そしてアスリートの自主トレについて考察する。

 

 

 

妥協する日々

道場ロゴが入った柔道衣が出来上がった(提供:合同会社EDGE&AXIS)

「もういいかな」
これは若い時から思っていたこと。
そこそこのタイトルを獲っても、日々のトレーニングである程度のメニューをこなしても、いつも頭をよぎるのは「もういいかな」。

なんて思って、「もう少しやろうかな」と思ったり、
「やーめた」と思ったりしたものである。

今も、
けさのトレーニングでも。

柔道で生活できていた時は、
この「もういいかな」は
いつまでも、あともう少し、もうちょっとーー
そう思って、トレーニングでも何でも続けることが出来るほど
暇であったのだけど、
今の生活では「もう少しやりたい」なのに、きょうは銀行に行かなきゃならない。

風呂屋に戻らなきゃならない。
追って来ない何かに追われている気分で生活している。

でもね、
進んでいます。

 

独りは慣れているけれど…「素直に寂しい」

こちらは道場名ロゴの青色バージョン(提供:合同会社EDGE&AXIS)

InstagramやTwitterでは日々、
柔道の人が技を動画に撮ってアップしていたり、
柔術家が技術を言語化して丁寧に説明したりしている映像を目にします。

うらやましい。
素直にうらやましい。

僕が住む熊本・八代市は、これがまた柔術という文化のない地域。
柔道はというと、そもそも大人ってどこでやっているのだろう。
そんな地域に住んでいるので、今の道場をつくるにしても、昔の「つる乃湯道場」でやっていた頃にしても、基本独りです。

独り。
僕、現役中も基本トレーニングは
大学在学中から自分を強くできるトレーニングは独りぼっちでした。

なので、
さほど気にならないものではある。

でもね。
一通りトレーニングを終えてからの最後の締めとしてのスパーリング、乱取り稽古というものは、やはり相手がいるんです。

素直に寂しい。

 

トップアスリートの「言葉」に納得

道場内には、内柴氏念願のジム用具がズラリ。これまでは自宅隣のテントをジム代わりにしていた(提供:合同会社EDGE&AXIS)

野球がこの間、世界一になりましたね。
ほかの競技もすごいアスリートがいます。
あんまり興味はないけれど、どの世界でもすごい人の記事や本は少し読むようにしています。

すごいといわれる考え方、日々の行い。
それを読み聞きして思うのは、いつも納得なんです。

言葉のセンス。
話す順番が分かりやすい、ということはあるけれど
基本はどの話を聞いても納得。

仕事の話を聞いてもそう。

ただ、これがあれです。
ビジネスの話を聞いて納得はしても、僕は仕事というもの、稼ぐということにおいては
赤ちゃんより赤ちゃんで、
自分のスポーツでの経験を変換してお金を稼ぐという動きはまったくできません。

 

自主トレの量と時間は幼少時の経験に比例する?

2017年秋、再出発にあたってジム経営も視野に入れ、器具の下見に行ったこともあった(撮影:丸井 乙生)

そんな記事や本を読みながら、
質の話は置いといて、
僕は最近思う。

自主トレの量、時間。

今、再び人に柔道を教えることが増えてきて思うのですが、
自主トレって、もしかしたら子どもの頃にやっていた分が
ただただ習慣となり、大人になってもやれるのではないか。
そう思うんです。

僕、自主トレやってたもん。
子どもの頃から。
しかも、その頃も独りでした。

見たこともないライバルを想像して、会ったこともない強い人をイメージして
負けず嫌いを発揮する。

子どもの頃に弱かった僕には、成長するたびに強い相手が現れる。

負けたり、引き分けたり、勝っているくせに納得できなかったり。
すると、日々の練習での「もういいかな」と「あともう少し」が延々続く。

 

現在は早朝トレで体慣らし

道場設立記念タオルの白バージョン。その道場にて(提供:合同会社EDGE&AXIS)

最近、
走っています。
“新・内柴道場”の目の前の道にコースを作り、まず5周。
道場に入って回転運動、
(昔はやりませんでした)
寝技の補強。
(これもやりませんでした)

そうしてバランストレーニング、軽い負荷でウエイトトレーニングをします。

昔はランニング、ロープ引き、スクワット等々、打ち込み、
こればかりでした。
体が研ぎ澄まされていたから、パワー系のトレーニングでガチガチにしても
不具合がなかったのでしょう。

今はまず負荷を自分に掛けられない。
鉄に触っていない。
強く力を入れられない(疲れる)。
そうして、肘、腰、膝がずきんずきんと痛いのです。

なので、
自分に柔らかくトレーニングし続けることで
負荷に身体を慣らしていく作業をしています。

「もう少し」
「もういいかな」
なんて思うたびに時間を気にする僕は
「なんだかなあ」なんて思って
朝のトレーニングを終えて今、銀行に来ております。

「トレーニング」なんて言っているけれど、
正直、僕が今やっていることはトレーニングと言えるのか
自信がないので恥ずかしいのだけれども、
走る、回転する、持ち上げる。
自分を移動するか、物を移動させるかというだけの事柄を
トレーニングなんて言い方をして
恥ずかしいったらありゃしない状態ではありますけど、
僕は頑張ります。

以上。
八代からでした。はい。


(内柴 正人)

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◆内柴道場「EDGE&AXIS」公式HP

uchishiba-dojo.com

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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