【連載「生きる理由」103】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「熊本に道場をつくった話」④~ライセンスは夫人が取得

夫人が熊本・八代市で開設した道場のロゴマーク(写真:事務局提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「熊本に道場をつくった話」④。

熊本県八代市に「内柴道場」ができあがった。
ライセンスは、内柴氏の柔道について一番弟子である夫人が取得する。
道場を作るにあたり、どんなことを考えていたのか。
その心のうちをつづる。

 

 

 

武道館はあるけれど

熊本にUターン移住した当時、浜辺で流木を見つけてはトレーニング(写真:本人提供)

僕が住む熊本県八代市には、武道館はあります。

借りればいくらでも使える。
借りればね。
この3年間も、武道館は貸してもらっていました。
20年前にチャンピオンとして柔道教室をした場所も、この八代武道館でした。

柔道するなら、武道館に行けばいい。

そうなんです。
150円払えば使える施設。

堂々と使えばいい。

それを僕は使えないのです。
気を遣う。
人の目を気にする。
(はい)

一緒にいる人に、嫌な気持ちになってほしくない。
(はい)

僕を見かけた人に「えっ」と思われたくない。
「はいっ!!」

そこなんです。

 

ならば道場をつくろう

内柴氏本人は温浴施設のマネジャーとして、日々修理・管理の業務に。お風呂の仕事は日々、機械に何かが起こる(写真:本人提供)

僕、仕事で店を任されている責任があるから
柔道をしている時間が正直、ありません。
会社も基本、柔道するな。という方針。

それでも
グラップリングの試合にも出ていましたし
柔術の試合にも出てしまっています。
柔道! しています。

仕事をした上での話。

そんな僕は道場をつくります。
理由はこんな僕のところへやってくるグラップリング、柔術、柔道の方々がいるんです。


妻のために
ここへさまよって来る選手のため
地域の子どもたちの未来のために

柔道界、永久追放の身分の僕が道場をつくります。

追放されてもなお
柔道をする者を愛しています。

 

ライセンスは夫人や柔道経験者の大人が取得

指導者ライセンスは、妻を筆頭に柔道の経験のある大人には全員取得してもらいます。
そこはルール通りです。

僕はライセンスが取れません。
ライセンスは持っていないけれど。

家は大工さんが作りますが、設計は建築士がやる。
施行が大工さん。
住むのは買った人。

このすみ分けの中で言えば、僕は何だ?
建築士か大工さんか、住んでいるおじさん。

夢を持って頑張るのは
ライセンスを持った大人たち、子どもたち。

 

内柴氏の指導は「世界一を獲ったオヤジの小言をつぶやく」

熊本県阿蘇市の幼なじみが作成していくれたTシャツ(写真:本人提供)

僕が道着を着るか着ないか!
教えるか教えないかというポイントは?


「道着は着るに決まっている」


ただし、
本当に職場から出られないから、休みの時にね。

 

教えるかどうかは、
オヤジの小言程度です。
世界一のオヤジの小言をつぶやこうと思います。


貧乏なチャンピオンが作る道場。
子どもたち、指導者たちと共に
道場も少しずつ育つと思います。

 

誰とももめる気はない

追伸、
僕は誰とももめる気はありません。
陰で
文句を言われても、誰が言っているのか探しもしません。
目の前に来て、とやかく言ってくれる人がいましたら
面白いから話は聞きます。

参考になれば勉強します。
少しムッとはするけれど。


この活動は、総合的には自分のため。
あと、残りの人生は死ぬだけです。
何年先かわからないけれど、
どうせ死ぬならやれることはやっておきたい。

 

自分以外の人のために

出来上がった「内柴道場」。指導・運営は夫人が行う(写真:本人提供)

人のために道場を作る。
頑張る。
これは、オリンピックもそうでした。
誰かのために
別れた奥さんのために
今はもう会えない子どもたちのために命をかけて戦った日々は嘘ではなく。
今、命をかけるなら求められる自分になる。
出来ることをすることが宿命なのだと思います。

僕がこの地域のために
どんなに少なくても来てくれる子どもたちのために
今の妻のために
一生懸命に柔道が出来る環境を作る。

そのくらいはさせてください。
宜しければ応援してやってください。

 

(内柴正人=この項つづく)

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

 

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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