【連載「生きる理由」124】柔道金メダリスト・内柴正人氏番外編 夫人がつづる「内柴柔道と出会った話」

内柴氏の寿子夫人(右端)が指導する道場生が関東大会で優勝(撮影:丸井 乙生)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。

内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は夫人がつづる「内柴柔道と出会った話」。

高校時代にたった1分間だけ、内柴氏から習ったことが夫人の人生を変えた。
彼が指導者を務めていた大学へ進学。
同氏の退任とともに、夫人は大学を退学したが、18年春に結婚。

現在は「内柴柔道」を世に残すことを使命と受け止め、
道場「EDGE&AXIS」を率い、指導者の道を歩んでいる。

 

 

出会うまでは柔道の「理」を知らなかった

道場生の関東大会出場に際し、内柴氏も上京。柔術でお世話になった「アラバンカ」(神奈川県)に顔を出して練習(提供:合同会社EDGE&AXIS)

小学生から柔道をしていましたが、学びだしたのは、大学生になってから。

というのも、高校まで柔道をしてきて
「理にかなう」の「理」を意識したことはなかったのです。

その場の動きで、相手が抵抗している力に対して、自分の力が勝つか負けるか。
それか、その反対の動きの何か、か。

なので、自分が勝ったとしても、いつもマグレだと思っていました。
負ければ情けないし、何となく、負けるのは嫌だなあと。

小学生までは、道場の仲間が好きで、団体戦で勝ちたくて練習をし、
中学生になると、個人戦がメインになり、
特に柔道に興味がなくなり。

高校になると、またまた素敵な仲間に出会えて、負けたくない理由ができた。

柔道というより、「負けられない!」に向き合っていたようなものでした。

 

内柴正人氏との出会い

夫妻で力を合わせ、一緒に道場を作り上げた(提供:合同会社EDGE&AXIS)

柔道を知ってみたい
と、思ったきっかけは内柴正人の柔道を体感したことでした。

彼が、私の通っていた高校に練習に来て
2時間だけ同じ場所で練習し、1分だけ少し習った。

この2時間で、

柔道は知ることがいっぱいあることに気がつき、

この人の後を付いていけば、私は柔道を知ることができる。
今までのモヤモヤがとれる。

そう思い、
今まで、柔道に費やしていた時間が無駄にならなくてよかった
と、安心し。

ワクワクして、練習が終わる頃には進学先を決めていました。


まだ、インターハイの予選も始まってない頃のことです。


それからは面白く、柔道を学ばせてもらいました。

 

「知りたい」は何にも勝る

2022年夏、全国3カ所でチャリティー柔道セミナーを行った際、寿子夫人(左奥)は運営・マネジャー・講師など、すべてにおいてミッションをやり遂げた(撮影:丸井 乙生)

全日本ジュニアの3位決定戦の直前に、内柴がトコトコ歩いてきて
肩襟の一本背負いしか掛けたことがない私に
「組んで試合してみろ」
とアドバイスをくれたので
組んでみたら意外と立ってはいたけれど、自分が掛ける技がなくて負ける。

大学に入ると、組んだ後、肩の力を抜いて開くと習い、抜き過ぎて釣り手側の肩関節脱臼。

引き手は切られる瞬間、脱力で手首のエッジと教われば、脱力しすぎて、引き手側も脱臼。


大学1年生の試合では今まで負けたことのない相手にも負けて
勝てることのほうが少なかったけれど
柔道を知ることができて、身につかせる、相手に試す、また知りたいと思う。

内柴が体感している感覚の柔道を知りたい。

この毎日がワクワクして
毎日が試合の前の日みたいで良い時間でした。

 

「勝ちたい」よりも「知りたい」を選んだ

私の本能が
「勝ちたい」
より
「知りたい」
を選んだことは正解でした。

大学を辞めて、
まったく成績は残せなかったけれど
柔道をずっとやってきた時間を少しでも、自分の柔道として形にすることができた
貴重な時間となりました。


柔道を選手として辞めてからも、子どもたちに柔道を教えることができているのも
自分が柔道を本気で知りたいと、学ぶ時間を過ごせたからです。

 

乱取り解除はつい最近

道場の時間割(提供:合同会社EDGE&AXIS)

今、「EDGE&AXIS」で柔道を学んでいる子たちは、
学ぶことが当たり前になっています。
内柴正人が教えているのは小学4年生。

すごいですよね。

身につけるべきは
相手を浮かせ、しっかりと受け身がとれる姿勢で投げてあげること。

これが出来なくて、人を投げようなんて危なすぎる。

ということで、
子どもたちも最近、乱取り解除されたばかり。

でも、意外とやれるんです。

 

内柴先生は“柔道広辞苑”

道場の料金表(提供:合同会社EDGE&AXIS)

子どもの大会がなくなり、ひと騒動していたようですが、
EDGEの生徒は覚えることがいっぱいで、退屈はしていないようです。

内柴先生は“柔道広辞苑”を持っていますからね(笑)


私も、指導者の身ではありますが
テクニック指導の時は
多分、一番内柴先生に質問しています。

まさか、大学を辞めて10年経った今、
続きを学べる機会がくるとは思ってもいませんでした。

めぐり合わせに感謝です。


内柴正人は柔道の「理」。
生徒のみんなとしっかり共有していきたいと思います。

 

(内柴 寿子)

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◆内柴道場「EDGE&AXIS」公式HP

uchishiba-dojo.com

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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