【連載「生きる理由」131】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「負けた」とは何を指すのか~「悔しさを溶かす人は、絶対に夢 かなわない」

6月に45歳の誕生日を迎えた内柴氏は、プレゼントを手にほほえむ(提供:合同会社EDGE&AXIS)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。

内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「負けた時の心の痛み」について。

五輪連覇を果たした金メダリストは、いついかなる時に「負けた」と感じてきたのか。
「悔しさを溶かす人は、絶対に夢 かなわない」
かつてインターハイで優勝した直後、内柴氏は「負けた」感覚を味わったのだという。

 

 

「負けた」は試合だけではない

夏休み中に道場生の子どもたちが連日駆け上った階段(提供:合同会社EDGE&AXIS)

負けた時の心の痛み。
それは練習の中で起こる不具合、うまくいかないことを指すのかもしれない。
ただ単に試合で負けたことをいうのかもしれない。

記憶にある先生から感心された事柄を挙げると、
僕が中学の時に
県の強化合宿の練習で、一本の乱取りの中で良い乱取りをしているにも関わらず
めちゃ悔しがっていた。
ということを県のどこかの中学の先生が僕の恩師に伝えた話。

これ、基本、僕はめちゃめちゃ技を打つんです。
ガンガン攻めて、全然投げてない時に
僕の感覚では「負けた」と感じるようになっていたことは今でも覚えている。

圧倒して攻めていても、投げていなければ負け。

その姿をよその学校の先生はすごいと言い、自分の恩師は言われてみて気づく。
そうして全体の集まりで「正人はな」とみんなに話す。

(その感覚は普通ではないんだな)
そうして良い感覚なのだな、と確信する。

 

インターハイ優勝直後

9・10QUINTET横浜アリーナ大会出場に向け、体をつくり直している途中の内柴氏。背景の道場内装がオシャレ(提供:合同会社EDGE&AXIS)

高校の時の夏の帰省。
高校の夏といえばインターハイ
それを優勝して重い想いとめちゃ重い優勝旗をわざわざ担いで地元に帰る。

仲間の高校へ寄る(福岡)。
仲間も高3。
学校によってルールが違い、仲間の高校は夏の解散をしていなかった。

「もう、帰ろうぜ」
なんてそそのかし、僕らは地元の中学に帰った。
あとでめっちゃ怒られたらしい。

優勝旗を担いで出身中学の柔道場へ。

「日本一になったぞー」
ってわざわざ優勝旗を組み立てて自慢してね。

恩師に喜んでもらってさ。

そうして練習。
後輩たち、そして同級生の仲間とする乱取り。

ここの一つの「負けた」という感覚。

 

日本一なのに「負けた」

9・10QUINTET横浜アリーナ大会出場が近づき、体を仕上げつつある。45歳にして短期間でコンディションを整える技術はさすが(提供:合同会社EDGE&AXIS)

同級生とはいえ、別の高校で柔道して来た者同士。
練習したいじゃん。
昔みたいに一方的な乱取りではないはず。
分かんない。
勝負したい。

この練習中に僕は投げられたんです。
後ろにステップを引いて下がる背負い投げ。

めっちゃキレイに投げられた。
その数分後、僕の大好きな仲間はクタクタにヘロヘロになるまで
僕にブリブリに攻め込まれることとなる。

センスでいえば仲間の方が良く、
勝負といえば僕の方は意地がある。
お互いに体力が均衡する年齢。
高校生、大学生の時にはやはりセンスがある方が追いつくもの。
それで投げられたんですけどね。

それを許さないクソ根性。

ぐったりしている仲間に恩師が笑いながら言う。

「そこだぞ!」
正人とお前の差。

仲間もね、
笑いながら返事していたことを覚えています。

この二つの話はたかだか練習の一場面なのですけど。

 

悔しさを溶かす人は絶対に夢 かなわない

「EDGE&AXIS」の柔術着。夫妻で道を切り開いてきた証しのロゴが入っている(提供:合同会社EDGE&AXIS)

がのんびりとした熊本の時間を過ごす中で
道場を作るまでにいろんな柔道の選手たちに出会わせてもらってきました。

そこで感じることは、負けるという痛みに対して鈍感すぎる。
鈍すぎる気がします。

悔しさを溶かす人は、絶対に夢かなわない。

それでも負けるから悔しくて、何をしていいか分からなくなる。
苦しくて朝晩関係なしに鍛える。

勝負の瞬間に技術が足りなかったら、力で勝てるように鍛える。
力で押さえつけられない相手には、力まずに技術勝負に入れるように普段から技術を磨く。

やらなくてはならないことが多すぎて、求める出力の強度が足りなくて何度も繰り返す。

(人と競争なんて好きではないんだけどなあ)
そうつぶやきながら。

負けた時の感覚が許せなくて
簡単にいえば頑張る。
「頑張れ、俺」

 

(内柴 正人=この項つづく)

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◆内柴道場「EDGE&AXIS」公式HP

uchishiba-dojo.com

 

◆EDGE&AXIS 公式ショップ

umhy171911.base.shop

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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