【連載「生きる理由」134】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「QUINTETに出場する話」③~教え子たちに教えてもらう

キルギス共和国から来日した弟子たちのためにアパートを借りたが、毎晩のように内柴氏の自宅に全員集合してしまう(提供:EDGE&AXIS)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「QUINTETに出場する話」③。

9・10 QUINTET横浜アリーナ大会で桜庭和志の長男・大世戦を前に、2年連続でキルギス共和国から来日した教え子たちにも協力してもらい、調整している様子についてつづった。

 

 

「減量」せずとも練習で絞れた

柔道の現役時代は過酷な減量をしていたが、今回は練習で絞れたことで契約体重をクリア。体重計を2つ使って念入りに(提供:EDGE&AXIS)

こんにちは。
試合前の内柴です。

いつもなら、試合1日前でも走らないと
体重が大変なことになる僕ですが、今回は減量なしでやっています。

76キロ契約。

4月まで80何キロあったのかは分からないけど
生きているのが苦しいくらい太っていました。

4月、内柴道場をスタートした時です。
それまでは何カ月か道場を作る方に専念していて、
トレーニングする暇があればトンカン、トンカンと
自分で道場を本当に作らないと、いつまでも出来上がらない状況でありました。

働き始めて、この4年で分かったことは
仕事とは生活を支える要なのかもしれない。
けれど、
体の健康、心の健康を考えると
仕事をどんだけ増やしても痩(や)せはしないということでした。

たぶん、
気持ちが疲れるとご飯を食べる癖が
若い時からついてるから太るんだろうな。

 

キルギスの弟子に「俺に時間をくれ」

キルギス共和国時代の教え子が2年連続で来日。今年は新道場の大きな空間で練習できる(提供:EDGE&AXIS)

さて、
試合、あと中3日。
今、キルギスの選手たちが来てくれているんですけど
先週から2週間は「俺に時間をくれ」。
そう頭下げて、グラップリングの練習をメインの時間にもってきてもらっています。

みんな、柔道をしに来ているのに
なかなか柔道をすることが出来ていない。

この八代という地域に、自転車で通える高校などがあればいいのですが、
先日も一つ高校に断られているので、選手たちには謝っています。

そもそも、僕が出稽古をするわけではなくて
キルギスの国のトップ選手から、地方の高校に「練習させてください」というお願いを断ること自体がどうなのかなあと思うのですが、まずは頭を下げないとお伺いを立てられないので、
人を通してていねいにお願いしてみたところ、NGをもらう。
という残念なパターンです。

現在は新道場に充実したトレーニング機器を備えたが、昨年までは自力で立てたテント内でトレーニングしていた(提供:EDGE&AXIS)

もとより、
キルギスの選手たちには昨年の時点で「俺は日本では差別を受ける人間だから、出稽古は出来るか分からないよ」
たぶん無理、という話でも来日しているので、そこまで気にしなくてもいいのだけど。

その昔、どこの高校、中学、柔道というのは
出稽古なんて許可をもらわないといけないことなんてなかっただけに
選手たちには申し訳ないです。

今も、普通の人はそんなもんは必要ないはず。

 

昨夏にキルギス勢が来日した当時は、温浴施設の片隅にある小さなスペースで練習していた(提供:EDGE&AXIS)

今回はそれに加えて僕の試合。
性格がいいのか育ちが良いのか、
へたくそなグラップリングで僕の練習相手をしてくれています。

感謝、感謝です。

 

“へたくそ”なのに強い弟子たち

今春オープンした新道場。キルギス共和国からはるばる来日した元教え子とグラップリングの練習(提供:EDGE&AXIS)

「へたくそなグラップリング」。
とはいえ、
キルギスの教え子たち、へたくそだろうが何だろうが
すでに僕より強いんです。

キルギスの国技「キルギスグルーシュ」
相撲のようなものです。
沖縄相撲に近いかな。

僕がキルギスに行った時も、帰った後も基本、柔道は抱き合ってするもの。

僕の教える柔道を理解しようとしている3人は
僕の教えた柔道とキルギススタイルの柔道のどちらも出来るのです。


道着なし、裸のほうが強い。


そんなわけで、生徒にやられています。
道着があると僕のほうが強い。

そんな感じで日々、教え子に負けています。

練習が出来ているのか、出来ていないのか、
僕が柔術で習ったことが通用しない相手、キルギス人。

グラップリングなのに寝てくれないから、寝技の練習に全然ならない。


まあ、グラップリングも柔術も立った状態から始まるから
立ちの練習はもちろん大切なのだけど。

道着がないと、ここまで投げられてくれない、倒されてくれない。

気を遣って、先に座って寝技をしてくれもしない。

となると、
寝技の練習をしたい僕は
仕方なしに、先に下になる。
すると、つぶされて抑え込まれてしまう。


まあ、もどかしいものです。


そんな感じで練習は普段よりたくさん出来ています。

その代わり、何の練習をしているのか分からなくてモヤモヤしております。
(内柴 正人=この項目つづく)

 

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◆内柴道場「EDGE&AXIS」公式HP

uchishiba-dojo.com

 

◆EDGE&AXIS 公式ショップ

umhy171911.base.shop

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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