2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。
これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は、「拒否したけれど来日してしまった弟子たちの話」。
2年連続でキルギス共和国時代の教え子が来日したものの、
実は当初、受け入れを断っていたのだという。
熱意にほだされた経緯についてつづる。
キルギスから 夫人に連日の電話
今年の夏、キルギス共和国から２度目の選手受け入れをしました。
今年は職場では受け入れない。
なぜなら大変だから！
よってお金もない。
セミナーをしてお金集めもしたくない。
なーんもやらない。
今年は来ないでくれ。
そうお願いした。
ここからひと月ほど、
妻にかかる電話。
何度も何度も。
何を話すのか、何度も電話をしてきていた。
たまに近くに僕がいるのが分かると、「先生、サワマレクン」。
――先生、熊本に行きたいです。
お金は自分たちで集めます――
弟子に説得されて来日を許可
「集めるな！ 働け！」
今年は来るなってば。大変なんだぞ。
妻、寿子さんは母親のように毎日、ごはんの支度をする。
道場も始めたからね、指導もある。
大変なのです。
選手からは、どうにかしてお金を集めるから受け入れてくれ。
お願いをされる。
テレビ電話で
僕からは
「お金が出来たなら、熊本に来るよりも練習相手のいる東京に行きなさい」
もっともでしょう。
何のパイプも持たない僕。
僕を挟まない方が行きやすくなる出稽古。
僕を挟むと、当然行きづらくなる出稽古。
何より申し訳ない強い気持ちで柔道界と関係を持ちたくない僕なんです。
今、道場を作り柔道を教えておりますが、これは振り切って「やると決めたこと」。
「東京へ行きなさい」
そう言う僕。
「先生のところで柔道をしたい」
というキルギスの教え子たち。
仕方がない。
おいで！
受け入れる僕。
昨年との違いは「道場があること」
ビザ申請、アパート、何だかんだ、すったもんだ。
大学の柔道部で受け入れるにしても、企業で受け入れるにしても、僕が受け入れるにしても手続きは一緒。
ならば力がある方がいい。
それらを埋め合わせたのが妻であり、道場の監督、寿子さんでした。
東京に行ってくれれば、何の苦労もないものの。
何もない八代で受け入れるのは、とても大変。
ひとつ、
昨年とは大きく違うのは、僕と妻で持つ道場があること。
とても大きな変化です。
昨年は道場すらないところに、風呂屋のロビーに畳を敷いて打ち込みをする。
階段を走る。
乱取りは僕の仕事が落ち着いて抜けられる時のみ、
県や市の武道館を借りてする練習。
相手はおらず。
それが、今年は道場がありました。
道場がないことが恥ずかしかった
みんなで作った柔道場。
僕が探して探して、探していることをこの土地の不動産の関係者が知り、
今借りている倉庫を紹介してくれたのでした。
突然来た、見知らぬおじいさん。
訪ねてこられました、風呂屋のフロントに。
知らないおじいさんの車の後ろをついて行った先にあった倉庫が今の道場です。
本音はね、
昨年、キルギスの選手を受け入れてから帰すまで、ずっと申し訳なかったんです。
好んでくれて
数年ぶりにトレーニングや柔道をする時間を作って来てくれているのに
道場すらないなんて、恥ずかしくて仕方がなかった。
正直、僕を知る人に訪ねてきて欲しくない。
恥ずかしいもん。
夫人の献身に心を打たれて協力者現る
でもね、今年は少し恥ずかしくない。
道場があるもん。
立派な道場ではないけど。
他人との関わりをあまり好まない僕からすれば立派過ぎるもの。
本当は、キルギスの弟子たちがこの道場で練習してくれる事が一番うれしいのです。
それが本音。
計算上、
ここを経営するには少なくとも、あと50名はプラスで増やさないと回らないものですが、
この道場に来てくれる方に、1人でも多くの理解してくれる人が現れてくれることを願ってます。
最後に、キルギス共和国の弟子たちの面倒をみる寿子監督の姿に心打たれて
たくさんの協力をしていただいた方々がいます。
本当にありがとうございます。
人の面倒を見ることがどれだけめんどくさいのか、
僕が一番知っているからこそ
この道場に協力していただける方々に心から感謝しています。
1年の4分の1
3カ月を熊本で過ごすキルギス人
コダイガシュグル
内柴道場
会員募集中！
集まれ300人。
（内柴 正人）
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◆内柴道場「EDGE＆AXIS」公式HP
◆EDGE&AXIS 公式ショップ
◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信
内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。
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うちしば・まさと
1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。
＃MasatoUchishiba
