【連載「生きる理由」145】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「たまに鬱々した時間が訪れる」話②~社会人になって知ったこと

 

柔道セミナーで指導した(撮影:飯野 恵)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は、「たまに鬱々した時間が訪れる」話②。

内柴氏は並外れた努力によって、五輪で2度金メダルを獲得した。

自分は天才ではないとするが、「努力できる才能」がずば抜けていた。

社会人となり、さまざまな人々と接する中で知ったこととは。

 

 

「チャンピオンになって地元で道場を」

(撮影:飯野 恵)

斉藤仁先生に進路を聞かれて
「チャンピオンになったら、熊本に帰って道場をやります」
そう言い切っていました。

先生は「お前はダメだ」「就職は決めてやる」と言ってくれて
ビビるくらい良い柔道部のある、
僕では入れない企業に決めてくれました。

そして、「チャンピオンになるとな、地元が遠のくものだぞ」とも言われました。

でも、
僕にとってのチャンピオンとは何か。
それは稼ぎが良くなるとか、人気者になることではなく、
自分が何者なのか知りたかった。
何者になれるのか知りたいから、チャンピオンを目指してみた。

それだけなので
今の生活をしていて「たら・れば」はあるけれど。

大学2年の時、斉藤仁先生との進路相談で言ったことがすべてだと思います。


チャンピオンになって地元に帰って町道場します。

だから、
チャンピオンになるだけだから大学だって辞めてもいいし、仕事はバイトでも良かったんです。

 

「演技だとしても頑張るしかない」

刺身をさばく腕前も上達(提供:EDGE&AXIS合同会社)

学生生活の時に全体の士気を高めるために厳しくされることが多く。
先生がめちゃ怒って、学年全体で話し合った時期がありました。
それまでの先輩達は拝むように先生にお願いして、頑張ることを条件に許されていました。

毎年、4年生が詰められる。
僕らの学年、同級生はまとまりきれなかった。
話し合いで
「演技でもめちゃ頑張ればいい」
「頑張ればいいんじゃないの?」
なぜ、頑張らないで頑張れないで
それが見つかって怒られて、連帯責任になって練習もせずに話し合いをしているのか。

早く練習したくてね。
「頑張るしかないところにいるのだから、
頑張れる気持ちがなくなってしまっていたとしても、
演技だとしても頑張るしかない」
当たり前の話をしたんです。

「内柴はできるかもしれないけれど、俺らは出来ない」
それに同調する同級生が多く、
試合に選ばれる選手数名もそちら側の気持ちが強かったので

「なら辞めればいい」

僕はこの時に辞める覚悟をしたものでした。

先生にも
「嘘でも頑張るしかないのに、頑張れないと言うのだから辞めるほかないです。僕も辞めます」

そう言い切っていました。

 

若い頃にずば抜けた「努力できる才能」があると

柔道セミナーで胸を貸す内柴氏(撮影:飯野 恵)

「内柴は辞めるな」
そしてお前がキャプテンになれ。
そんなごちゃごちゃした1年間がありました。

ほかの同級生からは嫌われるし、キャプテンなんかやらされるし、
大学の柔道なんて、
もう頑張れない状態からもうひと踏ん張りやらなくてはならない必要な努力をやりきることが大事なのに、
ほとんどの人はそれをやらずに酒飲んでパチンコしてるんです。

そりゃ、妥協する癖が身につくわけです。

なので、
「頑張る」を最低基準とし、
頑張れない理由を連帯責任とされてしまう状況だと僕には耐えられない。

僕は僕の夢をかなえるだけでも心が折れているのに。
折れても折れても毎日、自分に嘘をついて身体を引きずってトレーニングしている時に
連帯責任だとか罰だとか、先輩後輩の関係とか要らないんです。

当時はね。

 

年輪を重ねて知ったこと

職場で機械の調整を行う内柴氏(提供:EDGE&AXIS合同会社)

やっと今、
分かってきた。
「ほどよく接する」ということが分かってきました。

人が「夢」だという事柄も、実はそこまでの話ではない。
本気は本気ではなく“本気ふう”だということも。

その中にたまにいる本気の「夢」を持つ人がいる。
それは確かです。

「夢」なんて持っていない人もたくさんいることも知りました。

そんな人たちと僕を比べると、仕事において僕のほうが頑張れなかったりします。
スポーツをすると、とんでもなく抜群な人がいたりします。
でも、
地元で普通に働いている。

チビで、運動神経も育ててつけた僕からすると
みなさん、僕なんかより優れている人が多い上、
僕には時折、鬱々とした時間がやってくる。

頑張れない時に頑張らなくてもいいけれど、
やりたいことがあるのであれば、
気持ちが折れていても終わらせていたほうがいいこともあります。
続けて行った先に、チカラがついて地力となった時に
頑張らなくても普通にできる状態になります。

見てきたものがいつだって同じではないけれど、その時々で出会った景色の中身は実は変わらない。

そんなことを思う今日、これまででした。

 

(内柴 正人)

 

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◆内柴道場「EDGE&AXIS」公式HP

uchishiba-dojo.com

 

◆EDGE&AXIS 公式ショップ

umhy171911.base.shop

 

◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信      

内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
メンバーシップ配信では、今回の道場づくりについても動画をアップ中。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。

www.youtube.com

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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