東京パラリンピックの名場面を振り返る連載第3回は、車いすラグビー。パラリンピック競技の中で唯一、車いす同士のタックルが認められた激アツの競技は、2021年10月にパラリンピック後初の試合となる日本選手権予選リーグが日本各地で開催されている。
11月には日本最高峰の大会の一つ「ジャパンパラ」(千葉ポートアリーナ)も予定されており、「東京2020」の興奮を思い起こして観戦したいところだ。
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<名場面、プレーバック>
2021年8月29日、東京パラリンピックの車いすラグビーは東京・国立代々木競技場で3位決定戦が行われ、日本は3連覇を目指した豪州に勝利し、2大会連続の銅メダルを獲得した。
16年リオの銅メダル、そして18年世界選手権優勝を経て、地元開催のパラリンピックで悲願達成を目指した日本代表。頂点に立てなかった悔しさを胸に、再びパラリンピックの金メダル獲得へ戦いは続いていく。
予選リーグ:手強い相手に全勝
メダルへの道は平坦ではなかった。
予選リーグはフランス、デンマーク、豪州と同じグループA。初戦は世界ランキング6位のフランスに53-51の辛勝。ローポインターのCedric Nankinによるプレッシャー、31トライを挙げたJonathan Hivernatの巧みなチェアワークを利用した攻撃に苦しめられた。
2戦目は初出場のデンマーク。苦しんだ初戦とは打って変わって、前半までに30-26と4点差をつけ、最後は60-51と快勝した。
池透暢、池崎大輔、島川慎一のリオ銅メダルを知るハイポインターの活躍に加え、若山英史、今井友明らベテランローポインター陣の献身的な守備、さらには若手の橋本勝也もトライを決めた。
リオ大会からの進化を象徴するベテラン・若手の融合が見られた一戦で、全選手が出場を果たした。
3戦目はリオ大会金メダルの豪州と激突した。
デンマークに敗れて波乱のスタートを切っていた前回大会王者に対し、前半からわずかにリードを保って第3ピリオドまでに43-40と3点をリード。第4ピリオドは一進一退の攻防が続き、中盤でライリー・バットによる守備側の反則があった後、5点差に広げる池のトライが決まった。
日本は終盤まで攻撃の手を緩めず、57-53で勝利。全勝でグループ1位通過を決めた。
予選グループAは日本が1位、2位は豪州。グループBは米国、英国で、その4カ国が準決勝に進んだ。
準決勝:まさかの英国戦敗退 劣勢覆せず
準決勝はまさかの結末が待っていた。英国相手に49-55。
英国は豪州、米国、そして日本のトップ3に次いで世界ランキング4位。欧州最強国として、上位3カ国に割って入る実力は兼ね備えていた。
第1ピリオドは10-11、第2ピリオドは23-25。リードできずに折り返した。
そして、33-42と9点差がついた第3ピリオド。両チーム最多の20トライを挙げたJim Robertsらの強力な守備に対し、日本はスチールされる場面が続いた。
相手はパラリンピック、世界選手権のメダルはないが、04年アテネ、08年北京の4位など、表彰台にあと少しで手が届く強豪国。リオ大会後には、一時引退していた経験豊富なAaron Phippsが復帰するなど、パラリンピックに向けて態勢を整えていた。
日本にとって本大会初の敗戦。池主将は「悪夢であってほしい」と話すほど、現実を受け入れられなかった。
しかし、24時間後には銅メダルを懸けた戦いが始まる。金メダルを目指す戦いは終わってしまったが、世界選手権覇者としてメダルを手に入れるチャンスを逃すわけにはいかなかった。
3位決定戦:メダルなしでは終われない!王者同士のプライド
18年世界選手権優勝の日本と、パラリンピック3連覇を目指した豪州による3位決定戦。「決勝」と言われても納得してしまうようなカードが、銅メダルを争う一戦で実現することになった。
第1ピリオドが始まってわずか2秒ほど、ライリー・バットが池主将にいきなりタックル。ファウルとなったが、メダルを懸けた最後の一戦に懸ける気迫がにじんでいた。
先制トライは池、豪州最初のトライはバット。互いに譲らない攻防が繰り広げられる展開で、残り3分ほどで日本が反則により数的不利の状況が生まれてしまった。
しかし、ここでエース・池崎がスピードを生かしてトライ。2点差をつけると、残り5秒で再び池崎がトライを決め、17-14と3点差。好スタートを切った。
第2、第3ピリオドも日本の優位は変わらなかった。池のロングパスから池崎がトライを決める〝イケイケ・コンビ〟のコンビネーションが光り、後半にかけては相手のミスに付け込んで、第3ピリオド終了時には45-36と9点差をつけた。
第4ピリオド、序盤で46-36と10点差まで広げると、豪州勢による意地の反撃に動じることなく、最後は52-60で勝利。金メダルを目指した中での2大会連続銅メダルをもぎ取った。
試合終了後、日本はチーム全員がコート中央で円陣を組んだ。無観客の会場に、池主将、選手・スタッフらの声が響き渡った。
試合後:表情和らぐベテランと最年少・橋本の涙
銅メダル獲得後は、池、池崎、島川が取材に応じた。ハイポインター3人が肩を寄せ合い、ほほえむ。前日には金メダルへの道が絶たれて悔し涙を流していたが、戦いを終えて安堵(ど)した様子だった。
一方、チーム最年少19歳の橋本勝也は涙を流していた。21年春、高校を卒業して社会人となった期待のホープは、出場機会が限られた中でも先輩たちを鼓舞する声をベンチから送り続けた。池崎が近づき言葉を交わすと、さらに思いがあふれて涙が止まらなくなった。
リオ大会の銅メダルから東京大会を迎えるまでの5年間。18年世界選手権優勝を経て、メダル獲得を支えたベテラン、さらなる高みを目指すために加わった新戦力が、ケビン・オアーヘッドコーチの下、1つの目標に向かって団結していた。
24年パリ大会での金メダル獲得という新たな目標が生まれた。ベテランたちの最高の笑顔は見られるか、悔しさを知った若手がうれし涙を流せるか。最高の景色を見るための3年間は、すでに始まっている。
(岡田剛)