つれづれなるままに、今回は日本の梅雨の季節を彩るアジサイ(紫陽花)。せっかく外出自粛が明けても、すぐに梅雨本番で憂うつになりがちな皆様が、少しでも明るく前向きな気持ちになれますように。
セイヨウアジサイは逆輸入品
梅雨の季節になるとアジサイが瑞々しい花を咲かせる。
アジサイは、「ガクアジサイ」と「セイヨウアジサイ」が広く知られている。これ以外にも、アジサイ属の花には、ヤマアジサイ、タマアジサイ、ノリウツギ、コアジサイ、ツルアジサイなどがある。
「ガクアジサイ」は日本の固有種。花の形に特徴があり、中心に集まっている小さな蕾のようなものが花で、その外側にガク(葉っぱが変化した花を守る部分)が大きな花びらのようについている。この形状が額縁に似ていることから「ガクアジサイ」と名付けられた。
一方の「セイヨウアジサイ」は、ガクアジサイの欧州での改良品種で、現在は数百品種もあるといわれる。1790年に、英国の植物学者ジョセフ・バンクス卿がロンドンのキューガーデン(Kew Garden=王立植物園)に日本固有のアジサイを持ち込み、その後19世紀から20世紀にかけてベルギー、オランダ、フランスを中心に品種改良が行われ、大正時代になってから日本に逆輸入された。
シーボルトが愛妻の名で紹介した
シーボルトが日本人妻だった「オタキさん」の名前で欧州にアジサイを紹介したとの説もある。
日本の鎖国時代に医師として来日したシーボルトは、国外追放処分を受けてからオランダへ戻り、日本の様々な植物を掲載した「フローラ・ヤポニカ(日本植物誌)」を刊行した。その中で、長崎で採取したという空色の紫陽花を「Hydrangea otaksa」(ハイドランゼア オタクサ)と名づけて紹介した。日本に残してきた妻を呼ぶ時の発音そのままを花の名にしたのでは、といわれている。
装飾花で虫に存在を知らせる
ガクアジサイを見ると、中央部に小さな「両性花」がたくさん付いている。周辺には花弁が大きい花がいくつか付くが、雄しべも雌しべもなくタネはできないため、これを「装飾花」という。両性花は小さく、虫の眼に付きにくいことから、花弁の大きな装飾花を付けて虫に花の存在を示していると言われている。
セイヨウアジサイは、この装飾花を品種改良で増やしたもので、両性花は装飾花の間にわずかしかない。
日本にブルー系が多い理由
花の色は、日本では青系統が多いが、これは日本の土壌が酸性であるためで、欧州ではアルカリ土壌のためか紅色系が多い。また、土中に窒素が少ないと紅色から藤色に変わる。
神奈川県鎌倉市にある明月院には約2500株のアジサイがあり、そのほとんどが国産品種。咲き始めは真っ白だった花が途中から水色になり、最後は群青色に染まる景観は名所として人気がある。
見てもいいが、食べちゃダメ!
アジサイの葉は有毒(青酸配糖体の一種を含む)で、以前、料理の下敷きに出された葉を食べて中毒症状を起こした人がいたという。有毒だから葉を食べる虫もいないのかと思っていたが、アジサイハバチの幼虫やヨトウムシは平気でむしゃむしゃ食べている…。
これらの虫に中毒症状が起きないのは、体内に解毒酵素を持っているためとか。現代のヒトにも、新型コロナウィルスを解毒する自然の酵素があるといいですね。
(安藤 伸良)