企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の自然コラム。つれづれなるままに、今回は「秋の七草」を紹介。「春の七草」は1月7日に七草粥を食べることで知っている人も多いが、秋にも七草があることは意外と知られていない。万葉集に選ばれた山上憶良の歌に詠まれている7種の草花のことを言うのだが、すべて言えますか?
- 七草は山上憶良が選定した
- ハギは七草唯一の樹木
- 「尾花」は月見に欠かせないアレ
- 日本人の好きなクズは米国で嫌われもの?
- なでたくなるほど可愛らしい花
- 読み方が超難関の「女郎花」
- フジバカマはオス蝶のパワースポット
- 要注意! 「あさがお」なのに「キキョウ」
七草は山上憶良が選定した
万葉集は日本に現存する最古の歌集で、西暦350年〜750年頃の歌約4500首が掲載されている。この中に植物名が記されている歌は1500首ほどある。
詠人(よみびと)の山上憶良は奈良時代初期(660年〜733年頃)の万葉歌人で、万葉集には78首の歌が掲載されている。そのうちの2首が秋の七草の始まりとされている。
「秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 七種の花」
「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなえし また藤袴 朝貌の花」
1つ目の歌で「秋の野に咲いている草花を指折り数えると7種類ある」とし、2つ目の歌でその7種を紹介している。
ハギは七草唯一の樹木
万葉集に出てくる「萩」とはヤマハギ(山萩)のこと。マメ科ハギ属の落葉低木で、秋の七草の中では唯一の樹木でもある。このため「秋の七草」を「秋の七種」と表記する文献もある。日本各地に自生し、最も普通に見られる。開花花期は7~9月。秋の訪れを楽しみにさせてくれる。
「尾花」は月見に欠かせないアレ
「尾花」とは、ススキのこと。イネ科ススキ属の多年草で、お月見に飾られる秋の代表的な草花といえる。「尾花」という名前は、花の形が動物の尾に似ていることに由来している。関東では、箱根・仙石原のススキの原が迫力あって見応えがある。
日本人の好きなクズは米国で嫌われもの?
「葛花」はマメ科クズ属のつる性多年草。花期は7~9月。総状に紅紫色の花が多数付き、開花時には芳香がある。名前は、大和の国(現奈良県)の「国栖(くず)」という地名の人が葛粉を売っていたことに由来する。
根は風邪や胃腸不良に効く漢方薬の「葛根湯」の原料として使われ、茎の繊維を織ったものは衣服に利用される「葛布」になる。他にも「葛湯」など日本ではいろいろと生活に活用されているが、米国では日本から入ってきたクズが大繁殖したため、「侵略的外来種」として嫌われている。
なでたくなるほど可愛らしい花
万葉集でいう「なでしこ」とはカワラナデシコのこと。「大和撫子」の別名もある。ナデシコ科ナデシコ属の多年草で河原や草地に生える。花期は5~9月。花は淡紅紫色で、稀に白色もある。名前の由来は、「なでてみたくなるほど可愛らしい」ことから付いたといわれる。
読み方が超難関の「女郎花」
「をみなえし」とは女郎花(おみなえし)のこと。オミナエシ科オミナエシ属の多年草で、日当たりの良い山野の草地に生える。花期は8~10月で、茎上部に黄色の花を多数付ける。近い仲間に、花が白色の「オトコエシ(男郎花)」がある。
フジバカマはオス蝶のパワースポット
「藤袴」はキク科フジバカマ属の多年草。中国原産で、花期は8~9月。花は淡紅紫色の筒状で、花の形が袴を履いたように見えることが名前の由来といわれる。花にはアサギマダラなどの蝶がよく来ているが、特にオスはメスを誘引するフェロモンの原料をフジバカマの花から得ているといわれている。
要注意! 「あさがお」なのに「キキョウ」
「朝貌(あさがお)」は朝顔ではなく、桔梗であると言われている。キキョウ科キキョウ属の多年草で、日当たりの良い山地、草原に生える。花期は7~9月で、紫色の花が多いが白花も見かける。根は漢方薬の「桔梗根」で咳止めや強壮剤として現在も利用されている。
(安藤 伸良)