自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。
日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能。企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。つれづれなるままに、今回は春植物の代表格「フクジュソウ」を紹介する。
旧正月を祝うおめでたい花
2020年の冬はかなりの暖冬だったが、例年は寒い冬が終わりに近づいてくると、他の草花に先駆けてフクジュソウ(福寿草)が可愛らしい花を咲かせている。
フクジュソウは、キンポウゲ科フクジュソウ属の花で「春植物」の1つ。原産地は日本、中国、朝鮮半島、シベリアなど。国内では北海道から本州の山野に多く見られる。
旧正月の時期に咲き始めることから「ガンジツソウ(元日草)」や「ツイタチソウ(朔日草)」とも呼ばれている。
江戸時代から、正月に咲き新年を祝う花(献歳植物)として床の間に飾られるようになり、幸福と長寿を願って「福寿草」と命名されたという。
一説では、「1番に春を告げる」という意味で「福告ぐ草(フクツグソウ)」という名前が使われていたが、語呂が悪いことから「告ぐ」が「寿」に差し替えられて「福寿草」になったとか。
花言葉も「幸せを招く」「永久の幸福」などとのこと。日本人に親しまれ、縁起のいい花とされてきたことが理解できる。
黄色いパラボラアンテナ
花は黄色で、パラボラアンテナ型の平開花。直径3~4センチ、花弁は20個以上ある。
草花は、一般的に花蜜を昆虫や鳥に提供する代わりに花粉の媒介をしてもらっているが、フクジュソウは花粉があっても花蜜を出さない。その代わりにパラボラアンテナ型の花の中心に太陽光を集めて、その温かさと黄色の花色で、早春に活動するハエやアブを誘引する。夜になると花を閉じ、寒さから雄しべや雌しべを守っている。
命短し「春の妖精」
そもそも「春植物」とはどんな草花のことを言うのか。
早春に、秋に葉を落とした落葉樹の林を歩いていると、足元に可憐な花を咲かせている草本(そうほん)を見たことがある方は多いと思う。落葉樹が葉を出す前に光を受けて、急いで芽を出し、生長し、花を咲かせ、実を結び、それと同時に光合成により根茎や球根などの貯蔵器官に栄養を蓄える。夏前には地上部が枯れ、また春が訪れるまで地下で過ごす草本を「春植物」と呼ぶ。
可憐な花が多いことから「春の妖精」と表現することもある。
また、わずか2カ月ほどの短い活動を終え、夏前には地上部が枯れてしまうことから「春のはかない命」(Spring Ephemeral)とも言われる。
フクジュソウだけじゃない 早春の楽しみ
春植物にはキンポウゲ科(フクジュソウ、セツブンソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、アズマイチゲ、キクザキイチゲなど)の花が多いが、他にも、ユリ科(カタクリ、アマナ、チゴユリ、ナルコユリ、ショウジョウバカマなど)、ケシ科(ムラサキケマン、ヤマエンゴサク、ジロボウエンゴサク、ヤマブキソウなど)の花がある。 フクジュソウ以外の可憐な花を探し回るのも、この季節だけの楽しみだ。(安藤 伸良)