イヌは「犬」ではなく「否」だった
「イヌタデ」は、「蓼(タデ)食う虫も好き好き」のことわざでもおなじみのタデ科の草本。別名を「アカマンマ」といい、子供の頃にした「ままごと遊び」を思い出される方も多いのでは。
植物の名前で「イヌ」とつくものは、元々は「否」がなまったもので役に立たないという意味を表している。同属の「ヤナギタデ」は葉に辛みがあって薬味に使えるが、このイヌタデの葉には辛みがない。役に立たない、食べられないことから、名前がついたとされる。
花期は4~11月。日本では北海道から本州、四国、九州、沖縄まで、いたるところの道端でも普通に見ることができる。同属には、この他にもサクラタデ、ボントクタデ、ハナタデ、オオイヌタデなどがある。
表紙写真で紹介した「イヌショウマ」は、キンポウゲ科サラシナショウマ属の草本。東京・高尾山など山地の湿った所に生え、8~9月に花穂を伸ばし白色の小花を多数付ける。山菜として食べられる同属の「サラシナショウマ」に対して、食用にならないことから「イヌショウマ」と名付けられている。
ネコのしっぽと目玉に見える
「ネコヤナギ」は、ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木。早春の雄花序には銀色の毛がふわふわと密生し、猫のしっぽや背中を丸めた姿に似ていることから名付けられたと言われている。春の訪れを告げる植物として、日本では古くから親しまれてきた。3月頃、葉が出る前に開花した雄花は葯(やく=雄しべの先にある花粉が入った袋)が紅色、花粉は黄色で彩りが美しいため、生け花の材料としてよく使われている。
「ネコノメソウ」はユキノシタ科ネコノメソウ属の草本。花期は4~5月で、上向きの茎葉に黄緑色の小花を付ける。実は熟すと裂け、中には茶色のタネが入っているが、その様子が猫の目玉に似ていることから命名された。同じ仲間にヤマネコノメ、ハナネコノメ、ヨゴレネコノメなど個性的な名の花が多い。
キツネの痕跡を感じる花
「キツネノカミソリ」はヒガンバナ科ヒガンバナ属の草本で、葉は早春から伸び始めて夏になると枯れてしまう。細長い葉の形をカミソリに例えて命名されたとされる。葉が枯れると、入れ替わりに花茎が伸びて先端に黄赤色の花を3~5個付ける。ヒガンバナと同じように花が咲く時には葉がないため同時に見ることはできない。名前に「キツネ」がついている由来は諸説あるようだが、葉がない状態で花が咲くため、その姿がキツネに化かされたようだ、という説もある。
「キツネノマゴ」はキツネノマゴ科キツネノマゴ属の草本で、公園や道端などでも見られる。開花時期は8~10月で、花茎の先端に淡紅紫色の唇形花を穂状に付ける。この穂状の花序が、キツネの尾に似ていることが名前の由来とされる。
「ブタのサラダ」のお味は?
「ブタナ」はキク科ブタナ属の草本で、別名は「タンポポモドキ」。その名の通り、遠目にはタンポポに見える。しかし、タンポポに比べて花茎が長く、途中から枝分かれしていることで区別がつく。見た目は豚と無縁。欧州原産の帰化植物で、フランス語名である「Salade de pore(ブタのサラダ)」を日本語訳したものが名前の由来となっている。筆者は食べた経験がないが、ブタナは食用可能で、欧州ではヒトのサラダや茹で野菜などにも利用されているという。(安藤 伸良)