企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。つれづれなるままに、今回は身近で見られる「キク(菊)」の後編。日本の美と文化の象徴として古くから尊ばれてきた格式高い花としての一面が強調されがちだが、秋はキクを野草として気軽に楽しむことができる。
崖や岩場にも生える強いキク
「シロバナアブラギク(白花油菊)」は、前編で紹介した「アワコガネギク」と「リュウノウギク」の自然交雑種。主に関東地方や長野県、紀伊半島などに分布している。やや乾いた崖や岩場などに生え、花期は10~11月。雑種のため決まった形態がなく、花の色は白色から淡黄色まで変化がある。
アフリカから帰化したキク
「ベニバナボロギク(紅花襤褸菊)」は、アフリカ原産の帰化植物。1946年に九州北部で発見され、60年代には関東地方でも見られるようになった。花期は8~10月で、頭花はすべて筒状花で下向きに咲く。花色は先端が紅赤色〜橙赤色で、下部は白い。
この仲間の1つに「ダンドボロギク(段戸襤褸菊)」がある。こちらは北米原産の帰化植物で、1933年に愛知県設楽町の段戸山(鷹ノ巣山)で採取され、発見地にちなんで命名された。茎の上部に筒状花のみの直径1センチほどの黄色の頭花をつける。
長寿と幸福のキク
「ノコンギク(野紺菊)」は、野山の明るい草地や道端で普通に見られる。花期は8~11月で、茎先に直径2.5センチほどの頭花をつける。舌状花は淡青紫色。花言葉の1つが「長寿と幸福」で、筆者のようなシニア世代にはうれしい。
鑑賞用の栽培品種に「コンギク(紺菊)」がある。こちらの花期も8~11月で、舌状花は青紫色~紅紫色と微妙に違いがある。
柚子の香りがする?しない?キク
「ユウガギク(柚香菊)」は、柚子の香りがする菊ということから命名されたと言われるが、実際はほとんど香りがしない。東北地方から近畿地方の日当たりの良い草地や、道端で普通に見られる。花期は7~11月。頭花は直径2.5センチほどで舌状花は白色〜淡青紫色。
万葉の時代から食べたキク
「ヨメナ(嫁菜)」は、万葉の時代から「若菜摘みの草」として知られている。春の若葉には特有の香りがあり、食用となる。山野の湿った場所、道端などで普通に見られる。花期は7~10月で、小枝の先に直径3センチほどの頭花を1個つける。舌状花は淡紫色。似た花にシロヨメナ(白嫁菜)やカントウヨメナ(関東嫁菜)がある。
キクのようでキクではない
「シュウメイギク(秋明菊)」は、花が美しいため付録として紹介したい。キクの名前がついてはいるが、これはキク科ではなくキンポウゲ科イチリンソウ属の花。古い時代に中国から渡来したと言われている。公園や植物園、個人宅の庭にもよく植えられている。
花期は9~10月。直径約5センチの大きな花で、花色は紅紫色〜白色。花弁に見えるのはガク片で、実際は花弁がない。こちらもだまされないように。
(安藤 伸良)