自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。
日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能。企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。
つれづれなるままに、今回は変な名前の木シリーズ第2弾、「ナンジャモンジャ」って何?
自生地では天然記念物
もんじゃ焼きの店名でも見かける「ナンジャモンジャ」の正式和名は「ヒトツバタゴ」。モクセイ科ヒトツバタゴ属の落葉樹で、花期はゴールデンウィークの4月末から5月初め。新枝の先に円錐花序を出し、花弁が細い線形の、プロペラのような白い花を多数つける。モクセイ科だが、香りはほとんどない。成長すると10メートルにも達する高木で、雪にも見える白い花が開花すると美しい。
日本から東アジアに多く分布しているが、日本での自生地は、長野、愛知、岐阜の一部地域、長崎県対馬だけと限られている。岐阜県の瑞浪市、恵那市、長崎県上対馬町(国内最大の自生地)などでは国の天然記念物に指定されている。
江戸時代に発見される
ヒトツバタゴという名前は、江戸時代に現在の愛知県にある尾州二ノ宮山中でこの木を発見した、名古屋の本草学者・水谷豊文により名づけられたと言われている。由来は、その近縁のトネリコ属がみな複葉であるのに対し、これは単葉である(=ヒトツバ)ということから、トネリコの方言である「タゴ」という言葉と組み合わせて命名されたとか。
数年前に旅行の途中で恵那に立ち寄った際、駅前に「菓舗ひとつばたご」とちょっと変わった名前の和菓子店を見つけた。店の名前の由来を聞いたところ、本店の所在地近くにヒトツバタゴの自生地があり、それが店名になったとのことだった。
水戸黄門を困らせた?
「ナンジャモンジャ」とは、ヒトツバタゴの別名(愛称)。こちらの名前の由来は諸説あるが、その中で最もおもしろいのは、江戸時代に水戸黄門(徳川光圀)が時の将軍に「あの木は何という木か?」と問われ、返答に窮して、咄嗟に「なんじゃもんじゃ」と答えたという説。当時、ナンジャモンジャとはその土地には珍しく誰も名前を知らない植物のことを指す総称として使われていて、全国に何種類ものナンジャモンジャと呼ばれる植物(クスノキ、イヌザクラ、ハルニレなど)があったといわれる。紛らわしいため注意が必要だが、現在はヒトツバタゴが、“ナンジャモンジャの本家”といえる。
真っ白な雪のように美しい
以前、日本経済新聞に掲載されていた辻原登氏の小説「韃靼の馬」にも書かれていたが、国内最大の自生地である対馬北部の鰐浦(わにうら)地区では、5月初旬に3000本といわれるヒトツバタゴの花で山の斜面が真っ白になり、隣接している海面を白く染めることから「ウミテラシ(海照らし)」とも呼ばれている。
東京周辺では最近、植えるところが増えてきている。調布市の深大寺の境内にあるヒトツバタゴの大木は花の時期になると雪を被ったように白花が咲き誇り、見事な景観になっている。興味のある方は、ぜひ訪れてほしい。(安藤 伸良)