自然観察指導員とは、自然を守る登録制のボランティアのこと。「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、日本各地で地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守るための仲間づくりに励んでいる。
日本自然保護協会が主催する指導員講習会を受講、修了して登録申請すれば、誰でも登録可能。企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、63歳で登録、指導歴13年を超えたシニア指導員の自然コラムを紹介する。
つれづれなるままに、今回は2回に分けて日本人が好きな花・第1位、サクラのあれこれを。
サクラも泣いている
サクラが満開の季節になった。花見シーズン真っ盛り、のはずが、今年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で花見も自粛の対象となっている。
筆者の自宅近くにあるサクラの名所、東京・井の頭公園も一部が封鎖されたまま。2020年3月に都内で開催を予定していた、自然観察指導員東京連絡会主催の観察会も、軒並み中止となってしまった。
せっかく咲いたサクラの花も、美しい姿を愛でてもらえず泣いているに違いない。少し寂しい春だからこそ、日本、いか世界の人々の心を浮き出させるサクラについてつづってみたい。
サクラは400種もある
サクラはバラ科サクラ属の樹木。野生種と栽培品種、合わせて約400種もあると言われている。野生種は、研究者によって若干異なってはいるが、ヤマザクラ(山桜)、エドヒガン(江戸彼岸)、マメザクラ(豆桜)、チョウジザクラ(丁子桜)、オオヤマザクラ(大山桜)、オオシマザクラ(大島桜)、カスミザクラ(霞桜)、タカネザクラ(高嶺桜)、ミヤマザクラ(深山桜)の9種と、2018年に新種と判定されたクマノザクラ(熊野桜)。
2018年に100年ぶり新種発見
クマノザクラは紀伊半島南部、和歌山、三重、奈良の3県にまたがって分布していることが確認され、国内に自生する野生のサクラとしては、実に100年ぶりに新種として命名された。 この地域では、ヤマザクラやカスミザクラが自生していて、それらとは異なる特徴を持ったサクラが咲いていることは以前から知られていたが、地元では「ヤマザクラの変異だろう」とか「早咲きのヤマザクラ」と解釈されて見落とされていたのだとか。クマノザクラの通常の開花は早ければ2月下旬からとされる。
この他に、イヌザクラ、ウワミズザクラ、シウリザクラと「サクラ」を名乗る樹木もあるが、これらはサクラ属ではなく、ウワミズザクラ属に分類される。
サクラは日本の国花
人気の花ランキングの結果などから日本人に最も愛されているとされる「桜」は、一般的に「菊」とともに日本の国花とされている。
パスポートの紋章や皇室の象徴が菊のため、国家を象徴するという意味で菊の印象の方が強いかもしれない。
しかし、国花について広辞苑では『桜または菊』、明鏡国語辞典でも『サクラ・キク』と記載されている。東京の開花宣言で知られる桜の標本木がある靖国神社の紋は、皇室と同じ「十六八重表菊」の紋で、桜と菊どちらにもゆかりの深い神社となっている。
ちなみに、同じアジアでも、韓国で最も人気のある花はムクゲで、中国では牡丹。両国ともに2位は梅だという。
日本では各都道府県で県木・県花を指定している。染井吉野(東京都)、富士桜(山梨県)、枝垂桜(京都府)、八重桜(奈良県)がそれぞれの県を代表していることなどからも、日本での桜の愛され度合が伝わってくる。(安藤 伸良=②につづく)