【雑学】自然観察指導員の徒然草=ユリは本当に美人の代名詞? 鬼もいればスカンクもいる~後編

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神奈川・箱根湿生花園に咲いていたササユリの花。2013年7月1日 (撮影:安藤伸良)

企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の自然コラム。つれづれなるままに、今回は英語名の「リリー」でもよく知られる「ユリ(百合)」を紹介する。例年とは違うコロナ禍の夏休みで気が滅入りがちな方は、夏に美しく咲く花を癒しにしてください。


関東には咲かないササユリ

「ササユリ」は日本特産の日本を代表するユリの1つ。中部地方以西、四国、九州に自生しているため、関東では見ることができない。開花時期は7~8月で、茎先に漏斗状の淡紅色、または白色の花が横向きに咲く。強い芳香がある。

厚い葉が、笹の葉に似ていることから命名されたという。実際、笹と混生していると、花が咲いていない場合はわかりにくい。最近は、環境の変化が影響しているのか、自生のササユリが減少しているといわれる。栽培が難しいとされる花だけに心配になる。

関西には咲かないヒメサユリ

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新潟・高城城址で見つけたヒメサユリの花。2015年5月30日 (撮影:安藤伸良)

「ヒメサユリ」は山地の草地に生え、主に宮城県、秋田県、福島県、山形県などに自生している。暑さに弱く、ササユリと違って、西日本ではお目にかかることができない。花期は6~8月で、茎先に淡紅色の花が横向きに咲く。

福島県南会津町にある「高清水自然公園」のヒメサユリ群生地では、ワラビが共生している。ワラビはヒメサユリの間隙に密生し、葉で適度な日陰をつくることで地温の上昇を防ぎ、茎で強風を和らげると考えられている。またワラビの根は、ヒメサユリの球根をねずみやモグラの食害から守っているという。

 

カサブランカは不動の1番人気

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都内の自宅に咲いたカサブランカの花。季節になると甘い香りが漂ってくる。2014年7月6日 (撮影:安藤伸良)

「カサブランカ」はユリ科ユリ属の栽培品種で人気が高い。カサブランカとはスペイン語で「白い家」を意味するため、純白で大きな花が咲くことから命名されたと考えられる。花期は6~7月で、ユリの女王「ヤマユリ」よりも大きい花が横向き、または下向きに咲く。

上品な芳香も大きな特徴。庭に1株あるだけで、開花中はカサブランカの甘い香りが漂ってくる。豪華で優美な花とともに、この香りも人気の理由のようだ。 

 

歯がない?ウバユリ

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東京・野川公園に咲いていたウバユリの花。2011年7月28日 (撮影:安藤伸良)

「ウバユリ(姥百合)」はユリ科ウバユリ属で、山野の林内や草地に自生している。背丈は1メートルほどになるが、花が咲くころには葉が枯れていることが多いため、「葉(歯)がない」ことから「老婆(姥)」に見立てられたとされる。

花期は7~8月。茎上部には長さ15~25センチの緑白色の花が横向きに咲く。内側に紫褐色の斑点があるものがある。ウバユリは山菜としても知られ、球根を食用にすることができる。

まさかの悪臭を放つユリもある

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神奈川・箱根湿生花園に咲くクロユリの花。2011年4月30日 (撮影:安藤伸良)

「クロユリ」はユリ科の高山植物で、日本では主に中部地方以北と北海道に分布している。花期は6~8月で、暗紫褐色・黒紫色の鐘状の花が茎先に数個、下向きに咲く。

ユリ属の花は芳香のあるものが多いが、このクロユリはなんと悪臭がする。ハエなどに花粉を運んでもらうための強い匂いで、英語では「skunk lily(スカンクユリ)」とも名付けられている。花は小さく可憐だが、贈り物には向かないかもしれません。
(安藤 伸良)