桜前線は東京をすでに通過し、都内はすっかり葉桜に。4月下旬は東北地方から満開の便りが届いている。
みちのくの桜において、全国的にも有数の名所が青森県弘前市の弘前城。天守閣を擁する弘前公園では、毎年ゴールデンウイークの時期に「弘前さくらまつり」が行われる。
南北に長い長方形の公園は敷地約49万平方メートルで、ソメイヨシノをはじめ約50種類2600本の桜が咲き誇る。
2022年は4月23日~5月5日までが弘前さくらまつり期間。弘前城本丸見学にかかる320円を除くと、無料で一般開放されている。露店の営業は午前9時から午後8時に限定され、アルコールも禁止されているが、密に十分注意して楽しみたい。
弘前地域で生まれ育った筆者が、地球の…ではなく「弘前さくらまつりの歩き方」を写真とともに解説。〝バーチャル桜〟ツアーにご案内する。
「弘前さくらまつり」の歩き方
「日本一の桜」でGoogle検索をかけると、ある2語が並ぶ。
「弘前」と「吉野」――
順位付けなど必要ない、という意見も重々承知の上で、地元出身の筆者としては「弘前の桜が日本一」と手前みそで宣言させてもらおう。
「弘前さくらまつり」は2019年GWの人出ランキングでは約250万人、博多どんたくを抜いて堂々の第1位というデータも存在する。新型コロナウイルス感染拡大前の数字だが、弘前市の人口約18万人を考慮すると、その数字はとてつもない。
なぜそんなに多くの人々が青森まで足を運び、桜だけを見に来るのか。
園内の桜並木も圧巻だが、まずは公園に入る前、「外堀」からして一味違うのだ。
名物「花筏(はないかだ)」とは
園内に入る前に、少々弘前公園の周りを散策してみたい。
公園を囲む外堀の両側には一直線に桜が立ち並び、枝が重なり合う木々が水面に反転して浮かび上がる。四方から桜が生えているかのように見えるこのスポットは、常に即席カメラマンでいっぱい。
特に、満開を少し過ぎた時期には、堀の水面を何層もの花びらが流れる「花筏(いかだ)」が現れ、「花の絨毯(じゅうたん)」とも呼ばれるほどだ。
絵の具を流したようにピンク一色に染まった様子は、ポスターやインスタグラムの常連と化している。お笑いコンビ「オードリー」好きの筆者としては、「春日のピンクベストばりだ」とあえて言い続けたい。
レトロな元〇〇〇〇のスタバはおさえるべし
少し外堀が混雑していたら、公園南側に隣接する「藤田記念庭園」の観覧もおすすめ。時間つぶし、と言っては失礼なほど、趣深いしだれ桜がお出迎えしてくれる。弘前出身の実業家で、貴族院議員も務めた藤田謙一が造らせたこの庭園は、東北地方で有数の規模約2万2000平方メートルを誇る。
もう少し人混みをやり過ごしたい場合は、公園脇のスターバックスコーヒーでまったりしよう。普通のスタバではない。弘前公園前店は1917年に建設された元陸軍官舎。東京では決してお目にかかれない木造のスタバだ。そのため、日本で2店舗目となる登録有形文化財の店舗にも指定されている。
1つ難点を挙げるとすると、「さくら」系商品が東京の開花時期をメインに設定されているため、まつり期間にはいただけないことだろうか。
(提供:共同通信社)
古い&太い~日本一のソメイヨシノ
公園に入るウオームアップを終えたところで、いよいよ門をくぐって園内へ進んでみよう。おすすめルートは公園東側の「東門」がスタート地点。しばらく歩くと、また「東内門」が見えてくる。
それをまたぐと、巨大なソメイヨシノが目に飛び込んでくる。樹齢130年以上で「日本最古」とされている名物の巨木だ。残念ながら2022年4月22日、福島県郡山市のソメイヨシノが樹齢約150年と判明し、日本最古の座を譲ることになってしまったが、長寿にあやかるシニア層が記念写真を撮るスポットでもある。
また、東門の北側にある「中央高校口」側には、幹周537センチで「日本一太い」といわれる超巨木がそびえ立つ。ガリバーがてのひらを広げたように幹が分かれており、こんな桜の木でかくれんぼをしていたら一生見つかるまい。
「け」=食べて
公園を歩いていると、遠くから屋台のいい香りが漂ってくる。
弘前市の岩木山ふもとの嶽(だけ)地区で栽培されるトウモロコシ「嶽きみ」、陸奥湾名物のホタテなど、海の幸山の幸の香りに包まれ、ついついお店をはしごしてしまう。
ただし、焼きそばとたこ焼きにはお気をつけて。地元民は何の違和感も持たずに食べている味付けだが、一般的には腰が抜けるほど甘いらしい。
極めつきは真っ黒なこんにゃく。1つ100円か150円の通称〝黒こん〟は、まつりの鉄板商品で、常に行列が出来ている。青森名物「しょうがみそ」をつけていただきたい。ただし、こんにゃくに乗ったみそは大変滑りやすいため落下に要注意。
初めて訪れた人は、桜に沿って並ぶ屋台で満腹になってしまうが、そこで終わりではない。公園北側にある演芸場エリアには、視界の360度すべてが屋台で埋め尽くされる。屋台の数は園内全体で200軒近くにのぼるといい、いちごあめの隣にいちごあめといった共存共栄、相乗効果の並びもザラだ。
お得情報として、店のおばちゃんのなまりがキツイほど、サービスをしてくれるという筆者長年の「勝利の方程式」も存在する。ぜひヒアリングに努めてほしい。
また、何といっても欠かせないアトラクションが「お化け屋敷」。筆者がその存在に気づいてから少なくとも十数年以上、同じ場所で同じおじさんが子どもたちを呼び込み続けている。
一度もこのお化け屋敷に入ったことがない同級生には、正直出会ったことがない。津軽弁混じりのお化けと出会えるチャンスは、ここ限定かもしれない。
地元民はさくらまつりについて、「これまで何回行ったことがあるか」ではなく、「今年は何回行った?」がGW明けお決まりのあいさつ。特に、小学生ではGWの思い出作文の大罪がきれいに全員「さくらまつり」。3回?4回?とマウント合戦を広げていた頃が懐かしい。
自分だけの映えスポット発掘も
とはいえ、花より団子になるなかれ。
空を覆うほど豊かな花のボリューム。少し風が強い日には、花びらたちが肩に留まっていることもあるとかないとか。昼には空の青色と桜のピンク色がコントラストを生み出し、青森県の名峰「岩木山」との共演が楽しめる。夜にはライトアップされた幻想的な桜が現れ、カメラを取り出さずにはいられない。
なかでも、映えスポット「桜のハート」は夜の観桜を推奨する。桜の枝が夜空を囲むようにハート型を描く地点では、いつもカップルの順番待ち。詳細な位置は非公式なため、人だかりの中を注意して進みたい。
あとは現場で!
また、2022年は4月10日から「YOASOBI SOUND WALK(サウンド・ウォーク)」も開催されている。若者に人気の音楽ユニット「YOASOBI」の「大正浪漫(ろまん)」と、曲の題材となった小説の物語を歩きながらスマートフォンで聞く無料のツアーだ。
先ほど紹介した藤田記念庭園をスタート地点に、6カ所のポイントを約40分間で周る。マスクで嗅覚を使った楽しみが制限される分、聴覚を使って視覚とともに楽しめる。
提供:オフィシャルサイト
そろそろ歩き疲れた頃合いかもしれない。コロナの影響で、完全な形での開催はかなわないが、桜の咲きっぷりとコロナは無縁。毎年通り鮮やかなピンク色をつけるよう、桜たちは着々と準備している。
GWはぜひ、4月14日に運転再開した東北新幹線も使って弘前へ。想像を何段も超えてくる「日本一の桜」を見に、かぎに、聴きに、浴びにいこう。
みにこいへ。みにこねばまいねよ。
(いいの=mimiyori編集部)
◆津軽弁の標準語訳
「みにこいへ。みにこねばまいねよ」は津軽弁。標準語では「見においで。見にこないとダメだよ」の意。後半部分は転じて「絶対見に来てくださいね」のニュアンスとなる。