【ふるさとトリビア】愛知県民は「えびふりゃー」とは言わない? 方言の真実<尾張弁編>

愛知県の観光地といえば名古屋城だがね(写真:photoAC)

日本各地のお国柄を、地元民が愛とツッコミで解説する連載「ふるさとトリビア」。

今回は独特な文化を誇る愛知県についてご紹介する。

 

ひつまぶし、味噌(みそ)煮込みうどん、小倉トーストなどなどオリジナルの食文化を楽しむべく、愛知県に行くとたびたび聞こえる音がある。

「だかね」「みゃあ」……ん?「えびふりゃー」?

他県民にとっては愛知県内ならどこでも同じように聞こえなくもない方言は、「尾張弁」「三河弁」「名古屋弁」の3種類に分かれるという。

愛知県特集の第1回は「尾張弁」について。標準語と方言を使いこなす愛知県民が分析した。

 

 

 

 「だがね」と「だがや」~口癖から人柄を推察

 

名古屋メシといえばひつまぶしだがや(写真:photoAC)

まずは基本である語尾「だがね」「だがや」。尾張弁の使い手は「~だがね」が口癖だ。

これは断定の意味で、標準語では「~だ」に相当するもの。

しかし、標準語で「~だ」と口にすることはほぼ皆無であるため、例えるなら「~だよ」が一層念押しされているようなニュアンスを持つ。

 

「だがね」にはえてして男女差があり、女性はそのまま「だがね」を使用する傾向がある。対して、男性には「だがね」派と「だがや」派が存在。状況や相手に応じて併用する折衷派も確認されており、どの派閥に属しているかで人柄を自然と推察できる。

 

筆者の経験上、「だがや」派の人は我が強い人が多い。強い尾張弁は、言われる身としては結構キツイのだ。

女性の「だがね」はともかく、男性の「だがや」で語尾を言い切られる時は、相手からバンと突き放されたような感覚になる。

会話はキャッチボール。標準語で話しかけられた時は、捕球しやすい緩いボールをふわっと投げてくれているように感じる。

対して、強烈な尾張弁を持った方と話している時は、「だがや」という剛速球を至近距離から叩き込まれた気になるものだ。

ただ、悪気はないので、もし愛知県民から「だがや」が来てもビタドメでお願いします。

 

地元民は聞いたことがない「えびふりゃー」問題

「みゃあ」は猫の鳴きマネをしているわけではない(写真:photoAC)

続いてはもう一つの代表格「みゃあ」。

「みゃあみゃあ」という猫の会話のイメージが尾張弁に付きまとっているが、「みゃあ」だけで使用することはなく、動詞+「ゃあ」の形で使用する。

「行く+ゃあ」で「行きゃあ」、「歩く+ゃあ」で「歩きゃあ」という具合だ。

 

ここで、「ほら、やっぱり『えびふりゃー』って言ってるんだ!」と心の中で指摘した読者のみなさま。

問題はこの「えびふりゃー」なのです。

 

「えびふりゃー」ことエビフライ(写真:photoAC)

筆者は尾張地方に生まれ育って数十年、地元民から「えびふりゃー」という発音を耳にしたことが一度としてない。

確かに、観光物産の品名や飲食店のメニュー表には「えびふりゃー」と書いてあることもある。

それは認めるとしても、尾張弁話者も音を発する時は全国のみなさまと同じ「エビフライ」。

尾張だけ仲間外れでもなく、ユニークでもないという、何とも言えない真実を公表せねばならないのが心苦しい。

 

名古屋といえば味噌カツのように味噌をつけると思いきや(写真:photoAC)

ちなみに、筆者の祖母は80代前半の尾張弁継承者だが、エビフライを作ってくれた時も「エビフライ食べりゃあええがね」。

それでも出されるのは「味噌だがね!」と言いたいところだが、「タルタルソース」。愛知県と言えば、味噌を添えたえびふりゃーというイメージと期待を裏切ってしまい、これまた心苦しい。

 

尾張弁ユーザーの後継者問題

ゴリゴリの尾張弁を話すのはシニア層中心(写真:photoAC)

全国の方言が直面している「継承」の問題。尾張弁は、どの年代にどれくらい受け継がれているのか。

 

まずお伝えしなければいけない真実は、尾張地方に住んでいても尾張弁の使い手とは限らないということ。

代表格ツートップ「みゃあ」と「だがね」は、中高年層に受け継がれている。つまり、尾張地方の全住民が「みゃあみゃあ」言っているわけではない。

ゴリゴリの尾張弁は、「みゃあ」「だがね」を語尾にことごとく付けて話す。

「また中日負けたがや」
「あんなもん、ドベゴンズだでいかんわ」
「ありゃあ、監督替えりゃあええがね」

2021年あたりの中日ドラゴンズを気にするこの会話は、シニア層によるゴリゴリの尾張弁トークとなる。

 

中日ドラゴンズの本拠地はバンテリンドームだが(写真:photoAC)

一方、マイルド化した尾張弁も存在する。

「だがね」「だがや」の「ね」「や」を消した「~だが」はその一例。「新監督は立浪だが」は、「新監督は立浪だがね/や」よりも念押しの度合いが小さくなる。

 

マイルド化した尾張弁まで広げれば、中年層にも継承者がチラホラいる。

しかし、中年層の中でも継承している人と、していない人が存在する。さらに日頃から使用している人となると、実はごく少数というのが現状だ。

 

尾張出身の天下人×2に願っていただく

若者の尾張弁継承者はレアキャラだ(写真:photoAC)

中年層でもこの状況、若い世代の育成はさらに厳しいというほかない。

若者層にもまれに残存しているあたりは希望の光だが、「~だが」「~がん」が関の山。

強くてキツイ尾張弁が地盤沈下し、マイルド化している。筆者の友人に尾張弁を継承しているレアキャラがいるが、「カラオケだが」とか「あの映画おもしろいがん?」と言う程度。強烈な「だがや」には程遠い。

 

あの戦国武将が尾張弁で俳句詠み直し(写真:photoAC)

尾張の大先輩、織田信長、豊臣秀吉さんは自身も使用していたであろう尾張弁の窮状を見て何を思うのか。

尾張弁の継承成就を願って、お二方にホトトギスの俳句を尾張弁で詠んでいただこう。

 

鳴かんで 殺しゃあええがね ホトトギス  織田信長

鳴かんで 鳴かすんだがね ホトトギス   豊臣秀吉

 

(つづく=編集部見習いコイケ)

 

 

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