企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「腐生植物」を紹介する。
前回は、自らの光合成で栄養を作らず、他の植物に寄生して生きる「身近な寄生植物」を取り上げた。寄生植物の中でも、キノコやカビといった菌類の仲間を根に住まわせ、必要な有機物を菌類から得る珍しい植物を腐生植物という。
ギンリョウソウは竜に見える? それとも幽霊?
「ギンリョウソウ(銀竜草)」は、ツツジ科ギンリョウソウ属の多年草。日本では北海道から九州に広く分布している。
植物の大部分が銀色に光る白色で、姿かたちを竜に見立てたことが名前の由来。光を必要としないため、薄暗い落葉広葉樹林の中など湿気のある場所に生え、ほのかに浮かび上がって見えることから「ユウレイタケ」とも呼ばれる。
葉はなく、キノコの菌糸に寄生して、そこから養分を吸収する腐生植物の代表格。花期は4~8月で、20センチほどの草丈の先端に筒状の白色の花を下向きに付ける。
果実は液果(熟すと水分を多く含みやわらかくなる果実)で、茎が倒れるとつぶれてタネを散らす。
共生で生薬を生み出すツチアケビ
「ツチアケビ(土木通)」は、ラン科ツチアケビ属の多年草。北海道から九州に広く分布している。山地の林内や笹薮に生える腐生植物で、ナラタケ(キノコの一種)と共生している。
果実の形がアケビ(木通)に似ていて、直接土から生えていることから命名された。果実が赤く、唐辛子にも似ていることから、別名は「ヤマトウガラシ」。 花期は6~7月で、草丈の上部の枝に2センチほどの長さの黄褐色の花を付ける。
果実を天日で乾燥させたものを土通草(どつうそう)といい、利尿作用などの効能がある生薬にもなっている。
鬼が射ったオニノヤガラ
「オニノヤガラ(鬼の矢柄)」は、ラン科オニノヤガラ属の多年草。日本では北海道から九州に、他では中国や台湾に分布している。雑木林の林内に生え、ツチアケビと同様に、ナラタケの菌糸に寄生して養分を得ている。
名前は、60~100センチにまっすぐに伸びた草丈を、鬼が使う矢に見立てたことが由来。花期は6~7月で、黄褐色の茎に黄褐色を帯びた長さ1センチほどの壺状の小花を多数付ける。
マヤランは絶滅危惧種
「マヤラン(摩耶蘭)」は、ラン科シュンラン属で、常緑樹の林内に生える腐生の多年草。日本では関東地方南部以西の本州、四国、九州、沖縄に分布しており、明治時代に神戸の摩耶山で最初に発見されたことから命名された。
マヤランの共生菌も、ベニタケ科、イボタケ科、シロキクラゲ科といったキノコ類。マヤランは絶滅の恐れがある種といわれていて、絶滅から救うために共生菌も守る必要がある。
花期は7~8月で、10~30センチの花茎の先に白色で紅紫色を帯びた花を数個付ける。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、最近はこれまで以上に除菌が叫ばれる世の中になった。しかし、必ずしも「菌=悪」ではないこと、また、人類と菌類が共生する方法を探る必要もあるということを腐生植物が私たちに教えてくれている。
(安藤 伸良)