2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。
これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「まいた種はみんな違う花を咲かせる話」。
この夏、内柴氏のもとに集結した弟子入り志願者たちは、その独特の技術、柔道への向き合い方を学んでいる。
模倣はオリジナルの原点。習得する過程で、不安にかられた時の心構えとは。
「野村先輩になりたい」「そりゃ無理や」
天理大学のレジェンド・細川伸二先生が言った。
「柔道が分かってきたな」
「上手になった」
「内柴、いつまでやるんや」
僕がオリンピックを連覇して、現役をのんびり続けようかと考えていた頃だった。
とっさに
「野村先輩になりたいんです」
そう言った瞬間に
「あは、そりゃ無理や」
「頑張れ」と去っていった。
分かってはいる。
その後に形だけ引退させてもらった。
（その後消えた）
柔道界を外から見て
こうして柔道界を外から見るようになり、思うことがある。
天才と呼ばれる選手はいつの時代もいるけれど。
天才と普通の選手の差は、いつまで経っても変わらない。
かと言って、天才に勝ちたい僕のような選手もいないわけではない。
相も変わらず、面白い世界ではある。
そんな中、柔道を辞めた僕。
僕のところに弟子が来る。
1年かけてやっといい柔道になってきた。
そんな時に元教え子、キルギスの3選手が来日した。
似ているけれど同じではない
弟子たちの練習を受け入れてくれる大学や高校は熊本にはほとんどなく、試行錯誤しながら職業訓練を行って、その中で練習をしている。
違う時間、違う国、地域で教えて来た数名が今、一緒に組み合っている。
大阪では、たった2度の柔道教室（※22年6月の愛知開催）では足りるはずもなく、LINEで文字で動画で、タニグチ家のみなさんが僕のスタイルをまねしようとしてくれている。
大丈夫。
徹底的にパクった先に、
ナカガワにはナカガワのスタイルが生まれ、
アスカル、エルボル、ラトベックにはそれぞれのスタイルが生まれる。
タニグチ姉妹、一人一人が全員まねしても、すべてが同じになるわけがない。
似てはいるけど同じではない。
勝つまで勝負をあきらめなければ答えが出る
誰かの柔道や技術を丸パクリしていると、
時に、やっていることが疑わしくなります。
それでも正しいスタイルを貫こうと努力した先に、ひとしずくの答えがすべてをかなえてくれます。
edgeを効かせて軸を意識して、
男は男らしく
女は女らしく
正面を向いて勝つまで勝負をあきらめなければ
答えが出ます。
頑張れ。
簡単に僕のスタイルができるまでを書いてみました。
（内柴 正人＝この項つづく）
◆内柴正人氏による柔道指導の動画配信
内柴氏が現在、熊本・八代市で小学生から大学生を対象に開催している練習会を中心に、指導内容を盛り込んだ動画配信を22年4月から開始している。
より詳しい内容について、メンバーシップ配信も開始した。
詳細は下記YouTubeのコミュニティ欄へ。
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うちしば・まさと
1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。
＃MasatoUchishiba
