【連載「生きる理由」19】柔道金メダリスト・内柴正人氏 現役時代のこだわり

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柔術の練習に励む内柴氏(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「現役時代のこだわり」。ミクロン単位にまで及ぶこだわりがあった現役時代の研ぎ澄まされた感覚と、現在の就職先に決めた理由が透けて見える。

 

 

全身ボディーソープで洗う派

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内柴氏が勤務する熊本県の「つる乃湯」八代店(写真:本人提供)

社長さん。関西弁。風呂に入る時は頭、顔、身体はすべてボデイーソープで洗う。

 

これだけを聞いて、この人は男性か女性かと問われたら、多くの人は「男性」を連想すると思うんです。知り合いの知り合いからそんな人の話をよく聞いていて、てっきり男性だと思っていたのですが、会ってみたら女性でした、はい。そんな僕も風呂に入る時は全身、ボデイーソープしか使いません。 

なぜなら、シャンプーを使うと髪の毛がキュッとしない。洗顔料の成分とボデイーソープの成分の違いが分からないので、洗った結果は僕にとっては同じ感じ。

というよりも、洗う時にキッチリ境目が使い分けられないのが嫌なんです。シャンプーで洗ったところのキワは、洗顔すれば重なっている。上から順に洗うのですが、頭を洗ったら首の後頭部側、顔を洗ったら首の前側は、体をゴシゴシする時の境い目になる。どっちを後にするか悩むのです。

 

そんな僕はきのう、シャンプーで頭を洗ってみました。サラサラ。でも、サラサラよりも、全身がキュッキュッとなるくらいがいいんです。だから、全身ボデイーソープ。牛乳石鹸が一番キュッとなる。

 

 

皮脂すら感じ取った現役時代の感覚

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現役時代もよく行っていた、ロープ引きのトレーニング(写真:本人提供)

僕がこんなこだわりを持つようになってしまったのは、柔道時代に自分の体の汚れで道着を汚したくなかったからなんです。

道着は真っ白がいい。あとは、着てる感覚。ただそれだけが理由です。

相手と組み合ってる時に道着を背中で引っ張ったり、ずらしたりするのですが、体の脂や汚れで感覚がズレることを嫌っていました。実際はそんなことがあるのかどうかは分からないけれど、何か気持ち悪い。なので、柔軟剤も使わないことにしていました。 

 

この感覚を持ったまま、今に至るわけです。柔術の練習の時もシャワーを浴びます。僕が「普通」だと思っていることの一つである、練習前のシャワーは意地でも入ります。筋トレ前にも入る。トレーニングのロープ引きの時も入る。

トレーニング中だと、どうしても汗を手でぬぐうでしょう。あの時に顔の脂が手に付くのが、とても我慢ならないのです。手に付いた脂が器具に付く。道着に付く。最も気になるのは、手に付いた汚れで相手の道着をつかんだ時に手と道着の間に皮脂があるような気がすること。何か感覚が違う。

 

 

練習の数時間前に到着していた理由とは

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内柴氏が勤務する熊本県の「つる乃湯」八代店(写真:本人提供)

だから、練習前は必ず風呂に入ります。シャワーすら浴びない人はいるけれど、できればきれいな道着で相手をして欲しいなと心の中で思っています。

そんな変な習慣のおかげで、出稽古や初めて行く土地になると、練習の何時間も前に目的地に到着するようになりました。到着してから、その近くのお風呂屋さんを調べて風呂に行く。そこで体重を1キロ落としてから、体を洗って練習へ行く。何年もそうしていました。柔術を始めてからも、変わらなかったです。 

ちなみに、相手の道着がくさかったりすると何にも集中できないので、そのような方とは練習しないことにしていました。海外の遠征だと、洗濯できない場所で合宿したりするんですね。そんな時でも、風呂で道着を手洗いで洗濯していましたし、どんなに疲れててもシャワーも浴びました。

「はあ、練習だわ」。悩み顔で浴びるシャワー。浴びている間に心がリセットされるのか、体をふいて服を着て、バッグに道着を詰めていると、どんなに疲れていても頑張るスイッチが入るのでした。

 

 

仕事を始めてみたら

今、練習を毎日しなくなって、風呂に何と1日1回しか入らない日があるんです。着替えも、昔なら普段着の短パンTシャツとトレーニングの短パンTシャツだけでも1日3回は着替えていたのに、1日上下一着で済む。そんな僕は、今の自分を少し嫌いになっています。

今の仕事は風呂屋ですから、本当はいつでも入れるはずなのですが、長い長い仕事をこなしながら、そのスキマ時間に練習するとなると、風呂に入るタイミングが分からないんです。風呂屋の風呂に入りたい時は自分の店ではなく、よそのお風呂屋さんに行く僕からでした。 

 (内柴正人) 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に60キロ級で全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

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