【連載「生きる理由」35】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「柔道で勝つための準備」後編

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教えを請われば柔道も教えている(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

 

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は試合前の「準備」について後編。前回は、練習では自分が知る限りの技を相手にバレていても、とにかく使い続けること」について述べた。

稽古では投げられると怒られがちな柔道において、本当は「投げられながら覚える」ことが大事だという。その理由についてつづる。

 

 

守りの基本を意識の外側でできるように身につける

相手の技にあえて投げられてみる。

僕の覚えている感覚。

中学2年の時、県の強化合宿に参加していました。2年生くらいには1つ上の先輩方の中でも対等にできる方だったので、誰とやっても五分以上にやれる。

合宿に来てる選手に、内股がよく切れる人がいたんです。普通に掛けさせなければうまくても仕掛けられないし、掛けられてもこらえたら倒されることもない。

「でも、どのくらいの技なんだろう?」

そう思ってしまったんです。 

 

投げられて 感じて 学ぶ

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現役時代ずっと続けていたロープ引き。今は学生たちにも伝えている(写真:本人提供)

たいしたことのない技ならば、その人の技に集中力を使って受ける必要がない。その集中力を、受けを気にしないで攻めることに使えます。 

で、その先輩に乱取りをお願いして、内股を掛けなきゃいけないくらい追い込んで、相手が不意に内股を掛ける流れを作って、掛けて来た瞬間に僕は力を抜いたんです。 

「ズコーン」と投げられたんですけどね。

(ああ、投げられるね)

なら掛けさせなきゃいい。

入られてしまったら投げられないようにこらえるのは大変だから、その前、手前で相手に掛けさせないようにしよう。

投げられて勉強したんです。

 

攻めるために押し込む、追い込む。
相手が技に入れるタイミングの一つは、自分が攻めるために押し込む時。

投げられてみて、押し込んでいいギリギリのラインを知る。
組まない柔道が多いですよね。あれは組んでて不安だから。

 

不安なら投げられて覚えればいい

当時は、投げられただけでしばかれる指導方法が当たり前でした。当然、相手の技に対してこらえない投げられ方をしたならば、しばかれます。

でも、僕は怒られないんです。

なぜか。

それは、投げられた直後に立ち上がって相手に組み付いてるからです。

先生も怒る暇がない。怒らせない。

中学から先、高校でも大学でもそうでした。全日本に入って若手の頃は怒られたけれど、僕の練習は投げられても怒られないんです。

なので、僕の経験からすると、「投げられるくらい不安なところは投げられながら覚えてしまったらいい」。

この経験、考えを持っているから、20年前の後輩にも今の学生にも、「投げられていいからやってみな」と、ずっと言っているのです。

みんな怒られたくないから、踏ん張って力んでいました。 

 

「投げられちゃいけない」には弊害がある

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最近、金魚やメダカを飼い始め、ついに水槽購入。ライトアップもしている

(写真:本人提供)

僕は現役中にあの伝説の3連覇、野村忠宏さんとめちゃくちゃ練習していました。
あの、大先輩にも組んで組まれて技の勝負を挑んでいました。
もちろんめっちゃボコられる。

組んで組まれて力を抜いて。

反応、反応で勝負する。

投げられる投げられる。めっちゃ怒られる。
でも、それが一番いい経験になりました。

 

「受け」は踏ん張って受けてしまうところを正しい姿勢で受けきることで、「攻める」ための一手が早くなる。受けを力んで踏ん張ったり避けたりすると、その姿勢から切り返して攻めるには2手ほど遅れる。
悪い姿勢にさせられた直後に逆転の一発は出せないでしょう。1回、姿勢を整えてそこからとなります。

 

だから、正しい姿勢で受けます。僕はこの受け方を「エッジ」と呼んでます。ちゃんと「フレーム」を作って相手の技を受ける。

それが一番ですね。うん。

柔道は寝技もあるけど基本立ち技の練習ばかりです。この立ち技。成功と失敗で分けると投げられるか投げるか。それしかない。

 

いつか蝶のように舞えるように

投げるためには攻めるしかなく、攻めると返されて投げられる可能性もあり、技を出せない人がとにかく多いのも柔道です。

もちろん、相手も簡単に投げられてくれない。
攻めれば返しに来る。
攻めるのは怖いけど、攻めなきゃ始まらないし、相手の技は受けてみないとどんなものか分からない。

 

まずは相手としっかり組んで力を抜いてみれば、持っている両腕のどこをおさえて、どの角度に逆回転を掛ければ相手の技が止まるか分かります。

脚の動きもそう。相手の技に対しての約束事通りに反応できれば投げられることはありません。

 

その反応を間違えるとぶっ飛ばされるのです。「逆エッジ」と名付けています。こうなると綺麗に投げられる。

いつか蝶のように舞えるように。

正しくぶっ飛んでおけば、正しい反応がいつしか意識の外側でできるようにもなります。

大切なことは、守りの反応を意識の外側で処理すること。

 

(内柴正人=この項つづく)

 

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に60キロ級で全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

 

 

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