パラスポーツ界、スポーツ界、いや世界きってのおしどり夫婦がいる。
東京2020パラリンピック柔道日本代表の廣瀬悠・順子夫妻だ。
2人は16年リオ大会で、日本で初めてパラリンピック同競技同時出場の夫妻となった。妻・順子は女子57キロ級で銅メダルを獲得。順子の活躍をコーチとして支えながら、自身も代表選手として出場したのが夫の悠だ。東京大会も夫婦で出場、メダルが期待されている。
さぞかしストイックな夫婦かと思いきや、ランニングは好きになれないし、とにかく甘いものとカエルが大好きな夫婦で⁈
選手の素顔を知れば、競技にも興味がわくパラアスリート連載、第2回は「夫婦二人三脚!」廣瀬悠・順子夫妻について。
ハッピーバースデー悠
選手と選手、選手とコーチとして接する2人は、お互いを励みに様々な苦難を乗り越えてきた。あとは東京2020パラリンピックでメダルを獲得するのみ。
大会を前にピリピリしているのではないかと、2人のインスタグラムをのぞいてみると…
ホテルから誕生日サプライズを受けたことに、「俺らもプチ有名人だなwww」(21年7月13日投稿)
ほんわかするような日常と悠の嬉しそうなVサインが映し出されていた。
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悠
悠は、21年7月17日に42歳の誕生日を迎えた。
小2から柔道を始め、愛媛・宇和島東高ではインターハイにも出場した。
しかし、高2の時に突然悪夢が襲う。
コンタクトレンズを作ろうと病院へ行くと、緑内障と判明。高校卒業後一時は働いたが、イライラが募るばかりだった。
20歳で上京し、アルバイトをしながらブラジリアン柔術の教室に通ったのは、このままではいけないという危機感から。3年後に障がい者手帳を取得したことを機に、マッサージ師の資格を取るべく愛媛に帰郷。盲学校で学ぶ中で柔道を再開することを勧められ、再び柔の道に足を踏み出した。
08年北京大会は100キロ級で初出場し5位入賞、12年ロンドン大会は出場ならず。そして15年に順子と結婚し、16年リオ大会では90キロ級で出場した。
順子
夫婦の馴れ初めも気になるところだが、一旦順子の話に移ろう。
柔道を始めたきっかけは、「あわせて1本!」という少女漫画だった。山口・西京高でインターハイに出場し、大学でも柔道部に入部、順風満帆な柔道人生に見えたその時だった。
19歳の時、膠原病の一種「成人スティル病」で入院、その際に血栓性血小板減少性紫斑病という血管が詰まりやすくなる合併症にかかり、視界の中央部が見えなくなった。突如として将来の不安に襲われた順子は、大学も柔道も辞めた。
リハビリを経て、大学で学業とボランティアサークルの活動に励んだ。その中で心を動かしたのが、視覚障がい者のパラスポーツ「ゴールボール」大会で活躍する選手たちの姿だ。
自分も何か一生懸命になれることをしたいと12年夏、視覚障がい者柔道を始めた。16年リオ大会女子57キロ級で獲得した銅メダルは大会日本女子第1号、そして04年アテネから採用されたパラ柔道で日本女子初のメダルでもあった。
畳の上で微笑む妻に、夫は観客席でスタンディングオベーションを送っていた。
馴れ初め
そんな2人の馴れ初めについて。
2人が運命の出会いを果たしたのは13年の海外遠征だ。
キャリアを歩み始めたばかりの順子と、リオ大会出場を目指す悠。14年から交際を始めたが、15年に東京・愛媛の遠距離恋愛を理由に別れ話に…。
「距離が問題なら結婚して」
そうプロポーズしたのは順子の方だった。
「柔道はどこでもできるけれど、結婚は悠さんとしたい」
11歳年下の彼女からの逆プロポーズがどれほど嬉しかったことか、想像に難(かた)くない。
2人のお茶目な日常
そうして2人で24時間一緒に暮らす生活が始まった。
拠点は悠の地元・愛媛県松山市。
遠征合宿の際は松山空港から飛行機で往復するのは大変だが、悠の人脈で稽古先には恵まれている。
地元の高校や道場でもトレーニングをして家に帰ると、今度は家事の時間。
料理は、順子が包丁担当・悠が味付けを担う。
顔の前まで野菜を近づけ慎重に皮をむく順子の横で、調味料「さしすせそ」を組み合わせて理想の味に近づけようとする悠。
「(悠は)炊き込みご飯にしても、炊き込みご飯のもとを使わずに、醤油・酒・みりんで作るんです。私(順子)が料理を作ってもあの調味料をくれと直される。出来る男なんですよ(笑)」
そして、たまにインスタに投稿されるスイーツとウサギとカエルの写真。
散歩中に見つけたカフェでスイーツを食べたり、デパートでケーキを飼ったり…ペットのバッドちゃん(兎)とケロちゃん(蛙)との時間も、2人にとって癒しの時間となっているようだ。
2人だから
もともと練習が好きではなかった悠だが、順子と一緒に行うことで相乗効果が生まれたという。
2人で徹底的に行うのはランニング。
再び2人のインスタを見てみると、ランニング中に撮影したという花や緑の写真が。
自然溢れるランニングコースで、花を愛でながら優雅なランニングしているのねと思ったら大間違い。
悠は減量のために、松山市内の大山寺に続く山道を往復6キロ、週3〜5回、サウナスーツを着て走っていたという。
「#ランニング嫌い」と付けたくなる気持ちも理解できる。(2020年6月15日投稿)
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2人はこうして、「夫婦で金メダルを目指す」と胸を張って挑めるようにしっかり実力をつけている真っ最中。
リオ大会で初戦負けと不完全燃焼で終わった悠は、
「メダルを取る人の横にいて、取ると取らないとでは、こんなに差があるんだなというのを肌で感じました。僕も〝あのコーチ、よかったね〟みたいな感じじゃなくて、〝ああ、僕、メダル獲ったたんですよ”って言いたいんですよね(笑)」
コーチとしても選手としてもメダル獲得のために手は抜かない。夫妻の挑戦は東京2020大会で一つの節目を迎える。
(つづく=mimiyori編集部)
※これまで取材した内容を再編集して掲載。