【連載「生きる理由」61】柔道金メダリスト・内柴正人氏 「柔道がうまくなる・強くなる話」①~無意識と有意識

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〝学生弟子〟に日々、柔道を指導する内柴氏(左)。そして、柔術の練習相手になってもらっている(写真:本人提供)

2004年アテネ、08年北京五輪柔道男子66キロ級を連覇した内柴正人氏は現在、熊本県内の温浴施設でマネジャーを務めている。18年からキルギス共和国の柔道総監督に就任し、19年秋に帰国した後は柔術と柔道の練習をしながら働く、いち社会人となった。

これまで、彼はどんな日々を過ごしてきたのか。内柴氏本人がつづる心象風景のコラム連載、今回は「柔道がうまくなる・強くなるための話」①。

 

どうしたら強くなることができるのか。
そう聞かれた時、内柴氏は一見遠回りのようでいて、一番の近道について説明する。
「技」は試合で瞬時に体が反応するには、反復練習しかない。
「体」は反復を身につける体をつくるにはトレーニングは必須。
そして、「心」は「自分で考える」こと。

 

強くなるための「心技体」の整え方をつづった。

まず第1回は、練習を始めるにあたっての意識について。

 

 

 

技術は「すべては反復」

今、僕のところに練習に来てる子たちにはすべての場面での動き、さばきは答えを出してあげています。 共通の答えを出し切ってあげている。

技術的に「自分で考える」というモノはそこでは使わない。
つまり、研究なんてモノはない。
あるのは反復のみなのです。

 

天才とは

柔道における天才とは、出力が瞬間的に強すぎて動きの角度が的確な人のこと。
天才に勝つには、量から質を生み出すしかないんです。
量とは何か。そして、量の内容は何なのでしょうか?
この後に説明しますが、考えてみてください。

 

すべてを言葉にする

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柔術を習った柔術ジム「アラバンカ」の看板のもと、柔術の練習ができるスペースをつくった。その一部に、洗浄した中古の畳を敷いて柔道の練習もできるように(写真:本人提供)

天才ではない人で強くなりたい人がいたら、すべてを言葉にしてみてください。
強くさせたい人がいたら、その人に伝わる言葉を考えてあげて、時間がかかってもいいから伝えてあげてください。
これも質と量です。


次第に合言葉が生まれます。

 

あいまいな動きを言葉で表現する――僕は「エッジ」や「ボックス」といった、柔道では使わない言葉を15年以上前から使っていますが、動きや状態にすら名前をつけて、その言葉を使って相方に理解してもらう。
そうしたら、練習の時にどの状況を反復するか決まってきて、練習の質も上がることでしょう。

 

無意識と有意識

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最近、老眼になってきたとか(写真:本人提供)

口では柔道が好きだといい、練習をおろそかにする「アイ・ラブ・柔道」精神。

僕はそれをいつもからかっています。

だいたい得意技一発、二発くらいかな。

「アイ・ラブ・柔道」の場合は、無意識で出来る技を持ったら、それでもう完成な柔道。

 

「一生懸命練習する」とよく言いますが、「アイ・ラブ・柔道」では、無意識に出来る技の感覚練習をしています。本当は、無意識に出せる技は練習ではやらなくていいんです。

無意識に柔道してる時に出来る動きや掛けられる技は、実際には練習しなくてもそこそこ掛かるんですね。

毎日の練習は、意識しないと出来ない〝有意識〟の部分の動きを反復するだけでいいんです。

 

 技は「出力と動きの角度」/ 受けは「姿勢と反応」

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内柴氏が柔道のために小学校から中学まで過ごした阿蘇の雄大な景色(撮影:丸井 乙生)

僕は人を追い抜いてばかりでした。
というのも、子どもの頃はとても弱かったから。2つ下の子に負けていたし、同級生が5人くらいいたけれど、いつも「一番使えない」と言われていました。

(柔道を辞めたかったけれど辞められないので、大人になるまで、オリンピックまでに強くなれればいいと、努力の部分を信じたのは1988年ソウルオリンピックを見てからでした)

なので、中学に上がって勝てない先輩に出会っても、勝てない今を悔しがっても焦らずに、その先輩をよく見ていましたし、よく投げられにいっていました。


そうすると、だいたい得意技のパターンに気づけるんですね。
決まって1つか2つしか持っていないんです。
「出力」と「動きの角度」です。
それを力でこらえるのではなく、身体の角度、骨の角度で受ける、つまり「姿勢」と「反応」で受けるのです。

また、この「姿勢」と「反応」は、必ず元の位置に戻る癖をつけておくだけで、自分の攻撃に直でつなげられるんです。

 

技の受け方は最初に練習すべき

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マネジャーを務める温浴施設のカラン修理も行う(写真:本人提供)

柔道は攻撃ばかりを練習します。
試合で勝つことが最優先だから仕方がないのですが、「無意識と有意識」の練習があるのであれば、まずは相手の技を力ではなく姿勢で楽に受けられる「エッジ」の練習から入ることが大事なんです。
※「エッジ」とは…正しい姿勢で相手の技を受けること。


家を建てる時も整地をして基礎を打って、順番があるように。
今、温泉の仕事をしていますが、毎朝、自動で湯はりが出来てくれないと寝る時間もないですからね。

 

無意識に相手の技を跳ね返すくらいの受け方の練習は最初の初めにやるべきなのです。
ここ数年、柔道を教えた相手は少ないけれど、この受けができている人はゼロでした。
15年前もその昔も。
時代が進み、僕がこの世から一度消えている間に柔道は進化していると思っていたのだけど、たいして進んでませんでした。

そう、練習は有意識で出来ないことをやり、無意識化できるまでなじませたら次の有意識へ切り替える。
こうすることで柔道に幅ができます。

 

(内柴正人=この項つづく)

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うちしば・まさと

1978年6月17日、熊本県合志市出身。小3から柔道を始め、熊本・一宮中3年時に全国中学大会優勝。高3でインターハイ優勝。大学2年時の99年、嘉納治五郎杯東京国際大会では準決勝で野村忠宏を破って優勝。減量にも苦しんだことから03年に階級を66キロ級へ上げて2004年アテネ五輪は5試合すべて一本勝ちで金メダル獲得。08年北京は連覇した。10年秋引退表明。11年に教え子に乱暴したとして罪に問われ、上告するも棄却。17年9月出所。得意技は巴投げ。160センチ。18年に現在の夫人と再婚し、1男がいる。20年1月から現在の職場に勤務。

MasatoUchishiba

 

 

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