企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「野菜の花と実」の後編を紹介する。
コロナ感染症の拡大が続いて外出を控え、自宅で気晴らしに草花や野菜を育てているご家庭もあるのではないだろうか。拙宅は庭が狭いため、毎年プランターで朝顔と野菜を育てている。自分で育て始めてから気付いたのだが、野菜の花には見逃すのが惜しいほど綺麗なものが多い。
ツタンカーメンの先祖はエジプト王墓から出土
「ツタンカーメン」は、マメ科エンドウ属の一年草。エンドウ豆の仲間で食用になる。
古代エジプトのツタンカーメン王の墓から出土したマメの子孫と言われている。日本には、1956年に米国から渡来した。
花期は4月。一般的なエンドウ豆の白い花に対して、ツタンカーメンは紫色の花を咲かせ、豆果もエンドウ豆が緑色に対し、濃い紫色になる(中のタネは緑色)。
春に野原でよく見られるマメ科の「カラスノエンドウ」はエンドウ豆の原種と言われ、豆果は黒くなるが、花はツタンカーメンの花によく似ている。
真っ赤な花を咲かせるソバもある
「ソバ」は、タデ科ソバ属の一年草。中央アジア原産で古い時代に渡来した。
筆者も好物の1つで、日本人には欠かせない食べ物。麺の形で食べるようになったのは、江戸時代になってからとされる。
花期は5~11月で、花は白または薄いピンク色。ところが以前、長野県の白馬へ行った際に赤色のソバの花が咲いているのを初めて見て驚いた。
これは、1980年代にヒマラヤ地方から日本人の研究者がタネを持ち帰り、気候風土の違う日本で苦労しながら作出した「高嶺ルビー」と名付けられた品種。収穫された赤ソバ粉でつくられたそばもあると聞くが、こちらは食べたことがないので味が気になるところ。
意外と知らない食卓野菜の花
「ジャガイモ」は、ナス科ナス属の多年草。南米のアンデス山脈原産で、ナス科だけあってナスの花と似ている。
花期は5~6月。葉の付け根から花茎を長く伸ばし、先端に多数の花を付ける。花の色は品種によって違い、白や薄紫、ピンク色などがある。
清楚な感じの美しい花で、フランス王妃マリー・アントワネットが好んで髪飾りにしていたことでも知られている。
「ニンジン」は、セリ科ニンジン属の二年草。
中央アジア原産で、16~17世紀頃の江戸時代に中国から伝わってきた野菜とされる。育てやすい特徴があるため、すぐに全国に広まった。
花期は6~8月。花は白く、5枚花弁でセリ科特有の散形花序をした形が特徴的。
「ダイコン」は、アブラナ科ダイコン属の越年草。地中海・中央アジア原産で、日本へは中国経由で渡来し、9世紀頃にはすでに栽培されていたとされる。
花期は4~5月。茎先に総状花序を出し、白または淡い紫色をした十字形の4弁花を多数付ける。
一般的には、花が咲くとスが入って(成長しすぎて中に空洞ができて)大根は食べられなくなるため、家庭菜園でも農家でも花が咲く前に収穫する。あまり見ることがない花だけに、見つけた時はほっこりした気持ちになる。
(安藤 伸良)