【プロ野球コラム】追悼=高木守道氏 ミスタードラゴンズ事件簿その①

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2012年当時の高木守道氏(右=写真:日刊スポーツ/アフロ)

ミスタードラゴンズが天国へと旅立った。中日の名手として知られ、2度の監督を務めた高木守道氏が20年1月17日、急性心不全のため78歳で亡くなった。

ユニホームを脱げば優しく穏やかな好々爺。現役時代から口数が少なかったことから「むっつりえもん」などとも呼ばれたが、野球になるととにかくひたむきで、闘将・星野仙一もびっくりの瞬間湯沸かし器的な短気な一面もあった。

オールドファンに愛され、バックトス、10・8など数々のキーワードを残した男の事件簿を元ドラゴンズ番記者が紹介する。

 

 

守備へのプライドが起こした職場放棄事件

東京五輪が開催された年と同じ1964年4月25日の中日―大洋戦。高卒プロ5年目の高木は、すでに「1番・二塁」のレギュラーをつかんでいた。

この試合も先発出場していたが、当時の監督だった杉浦清のひと言で、途中からベンチ裏へと消えてしまう。中日の攻撃が終わり、ナインが守備に就いても二塁に高木の姿はない。慌てたチームで捜し回ったが、結局見つからずに途中交代となった。

きっかけは、守っていた時に中前へと抜けていった二遊間のゴロだった。ベンチに戻ってきた高木に、杉浦は「飛び込め」とゲキを飛ばした。

これに対し、高木はぼそりと「あんたがいって捕ってこい」と言ったきり、消えてしまったという。守備においては誰にも負けないという自負による行動だった。

グラウンドから消えた高木は合宿所に帰ったものの、怒りが収まらず、愛車に飛び乗って夜のドライブで憂さを晴らしたとか。職場放棄ともいえる造反劇だが、その後の高木は、何とおとがめなし。ポジショニング、打球の質、味方の配球、その後の動き…。すべてを見た上で守備を評価してくれという高木の誇りは、実は監督も周囲も認めていたことになる。

ファンを魅了したバックトスなどの華麗な守備力は、同僚投手だった星野仙一にも「日本で守備が一番うまいのは守道さん。他の名手とは次元が違う」と称された。 

 

バントを転がして三塁へ走った

甲子園の打席から三塁に向かって走り出したことがある。1957年夏。県岐阜商で唯一の1年生レギュラーだった高木は、2回戦の土浦一(茨城)戦で三塁線へのバントを転がし、とっさに一塁ではなく、三塁へ走るという珍事を起こした。

「おい、守道が三塁に走っとるぞ!」

当時の同級生だった国井恒男のスタンドでの声が聞こえたはずはないが、3、4歩ほど走ったところできびすを返し、本塁に戻ってから一塁に向かった。

「あれには驚きましたよ。さすがに緊張していたんでしょうね。『ラインだけ見ていたら、方向がわからなくなった』と言うんです。結果? きっちり走者を送ってバント成功です」と国井は笑いながら振り返っている。

 

 

あのミスターを魅了した高校1年生

高校入学当初から走攻守において群を抜いていた。

「こんな高校生がいるのだろうか」

親友の国井に限らず、天才的なプレーを見た当時の誰もが同じ感想を抱いた。

実は、立教大4年だった長嶋茂雄もその1人。57年6月、県岐阜商の招きに応じて同校へ特別コーチとしてやって来た長嶋は、自らノックした1年生の高木の野球センスに魅了され、「あれは絶対ものになる。使わなきゃダメですよ」と、二塁のレギュラーとして起用するよう学校サイドに進言していたという。

これがきっかけとなり、夏の大会からレギュラーに定着。3年春には主将として、センバツ準優勝を果たした。

卒業後は早大への進学を予定したが、地元の中日ドラゴンズの勧誘を受けて、プロ野球の世界へ。一足先に巨人で活躍を始めていた恩師、ミスターの背中を追った。

それから35年後の1994年には、ともに指揮官としてプロ野球史に残る「10・8決戦」を戦うことになる。2人の野球人生は、まるで運命に導かれるように、プロ入り後もさまざまな形で交錯する。
(その②につづく)

 

 

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高木守道(たかぎ・もりみち)
1941(昭和16)年7月17日、岐阜市生まれ。右投げ右打ち。県岐阜商から60年に中日入団。同年5月7日の大洋戦で初打席初本塁打デビュー。63年に50盗塁をマークして盗塁王となり、以降は65年、73年と3度の盗塁王に輝いた。77年の4打席連続本塁打はプロ野球タイ記録。二塁手としてベストナイン7度、ダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)3度。80年に現役引退。通算2282試合、2274安打、369盗塁。92年に中日監督に就任し、95年まで指揮を執ったがシーズン途中に辞任。12-13年に再び中日監督を務めた。06年に野球殿堂入り。