介護される側、する側も”自由”を手に入れることができる可能性を持つ「D Free」
(写真はイメージ)
人生100年時代、介護業界の人手不足が深刻化しているというが、いまだ多くの人がそれを他人事に感じているだろう。そんな人に知ってほしい。
一般的な介護施設において、介護職員は8時間の勤務時間のうち約3時間を排泄介助に当てているということを。
そんな介護職員の負担を減らす救世主が現れた。排泄予知デバイス、その名も「D Free」だ。
D Freeとは、超音波センサーによって膀胱の変化を捉え、排泄のタイミングを予測し、スマホやタブレットに知らせてくれるというIoTウェアラブルデバイス。開発は、ベンチャー企業「トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社」代表取締役・中西敦士が陣頭指揮を執った。
中西の“失禁”の過去が、オムツ(DIAPER)から自由になる世界を創る!
最終回の第4回は、
「D Free」~オムツから自由になる世界へ
おもらしから壮絶な研究を経て完成したのが「D Free」だ。
英語でオムツを意味する“DIAPER(ディアパー)”の頭文字Dに、自由の“Free”を組み合わせ、「オムツから自由になる世界」を意味している。
この存在が世に知られるようになったきっかけは、15年4月に始めたクラウドファンディングだった。
介護施設や排泄の問題に悩む個人などから3カ月で約1300万円を集めて話題になったが、開発の遅れにより、リターン商品を届けられないとして、2016年9月には支援者へ返金することを決めた。
その後は国や大手企業から総額約8.5億円の資金調達を行い、16年9月からは川崎市で実証実験を行った。実際にD Freeを使用した老人ホームでは、夜間、2人の職員が35人の入所者を見ており、その半数が自力でトイレに行けない人や便意と尿意を伝えられない人であった。
オムツ点検や交換、トイレ誘導など定時排泄ケアは平均2時間ごとに行っており、トイレに行っても排泄がない空振りが起こるなど生産性を下げる要因となっていた。
職員の負担を30%減/オムツ代は50%減
介護施設での実証試験からは、D Freeが介護職員の負担の約30%を、オムツ代の約50%を削減できることが分かったという。
実験後施設長は、以下のようなさまざまな効果が期待できると感じたと言う。
- 日中も含め排泄に費やされる時間が減れば、職員はもっとレクリエーションなどに力を注げる
- 利用者、特に女性は男性職員のお世話になることに羞恥心を感じる人もいるので、そのストレスを軽減できる。
- タイミングが分かり、自分で排泄できるようになれば自信につながる
- 排泄の心配がなくなれば日中に外出もできる
- 不要なオムツ交換が減り、家族はオムツ代の節約になる
自力で排泄できるということは、人間の尊厳を守ることにつながるのだ。
便を予測するのは難しいか
尿検知タイプが成功したのなら、次は便検知タイプかと思いきや、現実はそう甘くはない。
そもそも最初は、尿検知タイプと便検知タイプを同時に提供する計画だった。しかしながら、便検知タイプの開発が難航する中、尿の排泄介助の方が圧倒的に多いことから、尿検知タイプの開発と実証試験を優先的に進め、先行提供する決断をしたという。
まず直腸は膀胱の奥にあるため、尿に比べてノイズが入りやすく、より正確な情報を得るのが難しい。しかも排尿は1日に数回以上行われるのに対し、排便は1日1回程度のため、収集できる情報量が圧倒的に少なく、排泄予知の精度を高めるのにはより時間がかかる。
さらに、尿は液体で物質として状態が安定しているのに対し、便には軟便や硬便があり、その日の体調などによって物質としての状態が変化するため、超音波センサーが取得した波形データから、直腸内の便の状態や量を推測するのが、尿に比べてずっと難しいとのこと。
実験台の男性の苦労が報われるのは、当分先になるようだ。
「トイレからの自由へ」~進化は止まらない
これからは、介護の現場だけではなく、トイレの準備に時間がかかる車いすの人、急に尿意を催す人、自身の排泄サイクルを知りたい人、育児のトイレトレーニング、ダイビングやドライブ好きの健常者など幅広い用途で「D Free」を利用してもらえるように開発するそう。尿意を感じにくい人、トイレに不安を感じる人にとっては、「膀胱の中は空っぽですよ」と教えてくれるだけで救世主だろう。
また、将来的には、排泄のタイミングを知らせると共に、現在の位置から最も近いトイレと、そこまでの最短経路、さらに個室の空き情報を教えるアプリを作りたい考えているとか。
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(おわり=mimiyori編集部)