【パラアルペンスキー】まるでF1! 北京メダリスト・森井大輝が〝イタリア仕様〟のNEWセッティング~ジャパンカップ2日目

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大会2日目、大回転第2戦の2本目で最速タイムをマークした森井(撮影:丸井 乙生)

パラアルペンスキーのジャパンカップ2日目が5日、長野・野沢温泉スキー場で行われた。大回転第2戦は、2022年3月北京パラリンピック銅メダリストの森井大輝(トヨタ自動車)が男子座位を制し、初日に続いて大会2勝目。チェアスキーについて北京大会とは異なるセッティングをテストしており、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ大会に向けた〝イタリア仕様〟の開発に早くも着手した。

女子座位も、北京パラリンピックで3種目金メダルを獲得した村岡桃佳(トヨタ自動車)が大会2勝目。男子立位はこの日から出場した第一人者・三澤拓(SMBC日興証券)が圧勝した。

 

 

 

NEWセッティング〝隼1.5〟とは?

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新しいセッティング部分について、森井は「このあたり」とフレームやサスペンションを指して説明
(撮影:丸井 乙生)

真っ青な晴天を背に、森井が白いゲレンデを最速タイムで駆け抜けた。

1本目は狩野亮に次ぐ53秒29、2本目では出場選手ただ1人の52秒台に突入して2日連続の逆転勝利を飾った。

「ザクザクした雪質は、パラリンピックでもあり得ること。こういう雪質でも速く滑る方法を考えながら滑っていました。北京大会とは違う新しいセッティングを試して、何が正解なのかを探っています。今は平昌と北京のハーフ、〝隼1.5〟のような感じです」

車のシャシー技術を導入した2018年平昌大会バージョンが「隼モデル01」とすれば、さらに空気抵抗を軽減した2022年3月の北京大会バージョンが「隼モデル02」。その間をいくようなセッティングを現在試している。

 

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2日目の試合後、記者会見に臨んだ森井(撮影:丸井 乙生)

北京大会では硬いバーンに加え、平均斜度30度以上のコースに圧倒された。現地で初めてゴンドラに乗った時は、「降りたら(ゴンドラの駅が)宇宙船みたいな大きさだったんです」と驚きの連続が始まった。

事前練習のコースですら難度が高く、本番のコースは言わずもがな。通常、急斜面だと思う斜度に「あと10度ありそうな。壁に見えました」(森井)と感じるほどの難所もあったという。

「えらいところに来ちゃったなと(笑)。コースインスペクションでは正直、足がすくみました」

 

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森井の〝マシン〟。フットカバーは流線形で、シートはカーボンを使用している
(撮影:丸井 乙生)

北京大会ではスーパー大回転、滑降で銅メダルを獲得し、高速系種目は結果を出した。しかし、技術系の日本男子座位は大回転で鈴木猛史、回転で森井の5位が最高位。技術系で海外勢に離されていると感じたという。

また、森井、村岡の北京大会メダリストは、所属するトヨタ自動車の技術を注入したチェアスキーを使用しているが、海外勢ではフランスのメーカー「TESSIER」が流行中。森井はマシンの情報収集にも余念がない。

今回、新しいセッティングを試している理由は次回の26年大会に向けた〝イタリア仕様〟でもあるが、若手に知識の財産を残したいという思いもある。

「この人を超えれば世界が見える、というベンチマーク。僕を超えるタイムを出して(若手選手の)自信になれば。強いチェアスキー軍団ができたら幸せ。そうしたらルンルン気分で引退して、観客席からレースを見ます(笑)」

 

4年後も見据え、かつ「日本のチェアスキーチーム」の未来も見つめる。「スキーヤーとしてレベルアップさせてくれたのは北京パラリンピック」。チェアスキーのプロフェッショナルとして、大ベテランはこれからも精進を続ける。

 

〝勝負師〟狩野が男子座位2位

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攻めの滑りが特徴の狩野(撮影:丸井 乙生)

男子座位の2位には〝勝負師〟狩野亮が入った。

前日の大回転第1戦は春の雪に各選手が戸惑った1本目から攻め、座位選手ただ1人の1分切りを果たしたが、2本目でコースアウト。

第2戦のこの日は、1本目で森井を100分の9秒リードする53秒18をマークした。2本目も53秒台でそろえたが、続く森井が異次元の52秒台を出して2位となった。

 

大半の選手が苦戦した重い雪。しかし、狩野は「嫌いじゃない。だからパラリンピックでも勝ってこれた」。ただ、3月北京大会は真逆の硬いバーンに苦しみ、5種目中4種目で途中棄権し、2014年ソチ大会まで連覇した滑降でも7位に終わっていた。

 

「荒れた雪質の場合は板をどう使うか。硬い場合は、誰がスキーがうまいか、という勝負になる。高速系を戦う中ではかなり厳しかった」と5大会目のパラリンピックを振り返った。

 

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レース後の狩野(撮影:丸井 乙生)

網走市出身の狩野は3月14日に36歳を迎えた。現役続行か、引退か。去就はまだ正式に決めていない。

「心の中では決まっているものはありますが、いろんな方と話をしています。5~6月頃になったら、発表できると思います」

 

直近の去就のほかにも、若手のレベルアップを気にかけている。今後は2030年大会が故郷の北海道、札幌市が開催地に決まる可能性があり、これまで切磋琢磨しながらパラリンピックでメダルを獲得してきた森井、狩野、鈴木のトップ3のように、若手が強力なチェアスキーチームに成長することも願っている。

「その時には僕らじゃない、僕らみたいな集団をつくって、レベルが上がっていく環境をつくっていかなければいけない。僕はそこでえらそうにしながら(笑)、サポートができればと思っています」

 

 

男子立位の第一人者・三澤が圧勝

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右脚のみの滑走で絶妙のバランスを取る三澤拓(撮影:丸井 乙生)

男子立位の第一人者・三澤拓がこの日から参戦。1本目で同部門最速の53秒73をマークし、2本目は55秒台も、合計タイムで圧勝した。

22年の7月で35歳を迎える三澤も、去就が注目される選手の1人。大腿部からの切断選手では世界トップクラスの技術を誇るが、北京大会まで5大会連続出場する中でメダルには届かなかった。

「5大会は出た。でも、メダルには届かなかった。どこかで決めないといけない。メダルを取れなかったことは悔しいけれど、それも受け入れて。ただ、雪上に立ってみるとやっぱり楽しい。北京大会が終わってからは毎日気持ちが変わっていく中で、あっという間に日々過ぎていったという感じです」

 

自身の去就以外では、三澤もまた日本男子立位の発展を願っている。同部門では、06年トリノ大会で東海将彦が大回転銀メダルを獲得して以来、日本男子はメダルから遠ざかっている。若手ではこの日2位の青木大和、3位の髙橋幸平が成長中。「世界ではコンマ差で闘っていかないと厳しい。少なくとも日本で一番にならないと。もっと細かい技術指導も必要だし、僕は健常のスキー選手ともコネクションがあるので、(指導に)来てもらったりして、そういうところをマネジメントできればと思っています」と話していた。

(丸井 乙生)

 

◆大会成績(大回転第2戦 ※タイムは2本合計)

<男子立位>
①三澤拓 1分48秒85
②青木大和 1分51秒17
③髙橋幸平 1分52秒56
④東海将彦 1分53秒04
⑤小池岳太 1分53秒49
⑥宮田一也 2分24秒21

 <男子座位>
①森井大輝 1分45秒97
②狩野亮 1分47秒96
③鈴木猛史 1分49秒45

<男子ID>
①金澤碧詩 1分56秒71
②木村嘉秀 1分58秒84
③三浦良太 2分10秒20
④平野井渉 2分10秒70
⑤津田幸祐 2分11秒34
⑥五味逸太郎 2分12秒82
※途中棄権=木附雄祐、宮本涼平

<女子立位>
①本堂杏実 2分02秒81
※途中棄権=神山則子

<女子座位>
①村岡桃佳 1分51秒88
②田中佳子 2分05秒16
③岸本愛加 2分11秒56
※途中棄権=原田紀香

<女子ID>
①馬場圭美 2分24秒02
②浅野陽香 2分51秒62

 

 

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