卒業生が母校の横顔を紹介する連載「母校トリビア」。今回は鹿児島県立鶴丸高校の20代OBが、母校で培った力についてつづる。
「鶴丸」の校名は、旧薩摩藩主島津氏の居城「鹿児島城」の通称「鶴丸城」に由来する。名前だけでなく、その歴史もまた藩校「造士館」の流れをくむ、歴史ある学校だ。
西南戦争の舞台になった城山のふもと、明治維新を彷ふつとさせるレトロさが残る街に鶴丸高校はある。
知名度はラ・サールに完敗も…チェスト‼
東大12人、京大9人、九州大学35人。鶴丸高校、2020年春の大学合格者だ。鹿児島県民なら誰もが認める県トップクラスの進学校だが、ただし、「県No.1」ではない。
「ラ・サール高校」の存在である。
全国各地から優秀な生徒が集まる進学実績もさることながら、名前のインパクトが強すぎる。県内では両校がライバル関係にあるという声もしばしば聞かれるが、全国的な知名度ではラ・サールの圧勝だろう。
鶴丸生はその現実を頭では理解しながらも、心には「負けたくない」という熱い思いを宿している。幕末から明治維新で日本をリードした薩摩藩の城「鶴丸」の名を冠し、藩校の流れをくむ学びを享受できることは誇り。建学の理念の一つ「質実貢献」にある通り、勉強だけでなく部活動、そして学校行事に全力投球する。そんな3年間は鶴丸だったからこそ味わえた。
筆者は大学進学で上京して以来、20回は「もしかしてラ・サール?」と聞かれた。鶴丸高校について、もっと多くの人に知っていただければと思う。
具体的には、後輩たちが上京して、大学の新入生歓迎会で鹿児島県出身であることを明かした際に「もしかして鶴丸?」と言ってもらえるくらいの知名度になるまで、この母校トリビアを書き続けるつもりだ。
チェスト‼
伝統の理念「文武一道」
鶴丸に入学すると、まず教えられる言葉がある。「文武一道」だ。「文武両道じゃなくて?」と思うかもしれないが、「文武一道」こそ、鶴丸伝統の精神と言える。 その意味は「勉強も部活も、突き詰めれば一つの道。勉強も部活も全力で取り組むことでその相乗効果が生まれ、どちらも高めることができる」。
筆者自身、入学当初は「?」という感じだったが、3年間を通して自然と時間を効率的に使おうとする意識や、限られた時間で高いパフォーマンスを発揮するための工夫を凝らすようになった。結果、勉強と部活双方の質を向上させることができた。
また、2年時に同じクラスで毎朝10キロ走ってから登校していたY君は、一般入試で某一流大学に入学し、2021年箱根駅伝に出場。テレビでその雄姿を見て、堂々とした走りに魂が揺さぶられた。
鶴丸での生活と優秀な仲間の存在が、確かな実感を持って「文武一道」の真の意味を理解させてくれた。卒業した今もなお、この言葉は座右の銘になっている。
球場でも参考書! 「隙間時間」へのこだわり
「隙間時間を大切に」
受験を経験した人なら一度は耳にしたことがある言葉ではないだろうか。鶴丸生は隙間時間への意識が異常なまでに高い。
まず、常にポケットには単語帳か暗記プリントが入っている。休み時間の移動や登下校中など、1秒でも時間あればポケットからおもむろにそれらを取り出し読み始める。特に、全校朝会などの行事が始まる前に体育館で座って待機している時、1000人近い生徒たち全員が無言で単語帳を読む光景は異様でもある。
ちなみに、野球部は球場でも全員が参考書を読んでいた。学ランを着た丸刈り頭の数十人がバックネット裏で試合を見ながら勉強する光景を想像してみてほしい。
ほかのチームはドン引きしていたに違いない。
大学入試問題を的中させる教師陣
鶴丸の先生方の教育に対する熱意はすさまじい。定期テストから問題集までほとんどを自作しており、毎年のように大学入試問題を的中させてしまうほど質が高い。問題を解いていても、一筋縄ではいかないものばかりで、すべての問題が一つ一つ丁寧に作りこまれていることが伝わってくる。
また、すでに高校を卒業した浪人生に対しても、記述問題の添削や学習相談等の手厚いケアをしてくれる。そのため、制服の生徒たちに混じって私服の浪人生たちが職員室にいることもしばしば。テストや模試の後には質問待ちで長蛇の列ができるが、先生たちは嫌な顔一つせずに真摯に生徒一人ひとりと向き合ってくれる。
この記事を書いていたら、久しぶりに大好きな先生たちに会いに行きたくなってきた。
コロナが落ち着いたら、挨拶にでも行こうかなあ。
(mimiyori編集部・ぎしこたろう)