【雑学】自然観察指導員の徒然草=いのち短し恋せよ乙女 「春の妖精」を探してみよう

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長野・戸隠牧場で見つけたカタクリの花。2010年5月14日 (撮影:安藤伸良)

企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。つれづれなるままに、今回は「春植物」を紹介する。 

早春に、秋に葉を落とした落葉樹の林を歩いていると、足元に可憐な花を咲かせている草本を見たことがある方も多いのでは。落葉樹が葉を出す前に光を受けて、急いで芽を出し、生長し、花を咲かせ、実を結び、それと同時に光合成により根茎や球根などの貯蔵器官に栄養を蓄える草本を「春植物」と呼ぶ。 

可憐な花が多いことから「春の妖精」とも言われ、2~3カ月間の短い活動を終えて、夏前には地上部が枯れてしまうことから「春のはかない命」(Spring Ephemeral)とも言われている。

 

 

トトロの森にも咲くカタクリ

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埼玉・トトロの森に咲いていたカタクリの花。大きな群落になっていた。2018年3月24日 (撮影:安藤伸良)

「カタクリ(片栗)」は、ユリ科カタクリ属の多年草。春植物の代表格で日本全国に分布しており、万葉集にも「カタカゴ」の名前で出てくる。 

タネが結実し発芽してから花が咲くまで通常7年前後かかるとされる。20~30センチの茎先に淡紅紫色の花を下向きに1個だけ付ける。日の光を浴びると、花びらを後方へ反り返らせる独特の形になる。 

しばしば大きな群落になり、筆者が訪れた埼玉県所沢市の「トトロの森」では、地元の有志の人々が育てた数千株の大群落が見られる。真正の片栗粉はカタクリの鱗茎(球根)から採ったもの。また、鱗茎、葉、花はいずれも食用になる。

 

多くに愛されるイチリンソウ

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東京・野川公園で咲くイチリンソウの花。2015年4月9日 (撮影:安藤伸良)

「イチリンソウ(一輪草)」はキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。花期は4~5月で、北海道を除く全国の林床や草地に生える。かわいらしい白い花は多くの人に愛されている。 

名前は、1本の茎に1個の白花を付けるから。花はガク片が5~7枚あり、後述の「ニリンソウ」に比べてやや大きい。葉に葉柄があるが、ニリンソウは葉柄が無い。

  

トリカブトと間違えないでニリンソウ

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東京・野川公園のニリンソウの花。2019年3月31日 (撮影:安藤伸良)

「ニリンソウ(二輪草)」は、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。日本全国の山野の湿ったところに群生する。 

1本の茎に2個の花を付けることが名前の由来だが、実際には1~4個の花茎を出して白色の花を付ける。 

葉は山菜として食べられるが、猛毒のトリカブトの葉と似ているため、ニリンソウと間違えて中毒を起こすことが多いので十分に気を付けること。

 

「あずまの国」以外でも咲くアズマイチゲ

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長野・戸隠高原のアズマイチゲの花。2008年5月1日 (撮影:安藤伸良)

「アズマイチゲ(東一華)」は、3~5月に咲くキンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。「あずまの国に生えるイチゲ」が名前の由来で、関東地方で多く見られるが、実際には全国に分布している。 

草丈15~20センチの茎先に3~4センチの白花を1個つける。ガク片は8~13枚で、葉は楕円形。花は後述の「キクザキイチゲ」に似ているが、葉は細かく裂けていない。

 

キクに似た花が咲くキクザキイチゲ

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長野・戸隠高原のキクザキイチゲの花。2008年4月30日 (撮影:安藤伸良)

「キクザキイチゲ(菊咲一華)」は、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草。北海道と近畿以北の本州に分布している。 

草丈10~20センチの茎先に3~4センチの白色や淡紫青色のキクに似た花を付ける。名前の由来も、キクに似ているから。ガク片は8~13枚。葉はアズマイチゲに比べて切り込みが大きい。

 

雪を割って咲くユキワリイチゲ

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東京・国立科学博物館附属自然教育園のユキワリイチゲの花。2015年1月18日 (撮影:安藤伸良)

「ユキワリイチゲ(雪割一華)」は、キンポウゲ科イチリンソウ属の多年草で、四国、九州、近畿地方以西に分布している。 

茎先に直径3センチのキクに似た花を上向きに付ける。花色は白~淡紅紫色。葉はミツバによく似ている。 

早春に雪を割って一輪の花をのぞかせることから命名された。

 

のどに優しいアマナ

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東京・国立科学博物館附属自然教育園のアマナの花。2017年3月5日 (撮影:安藤伸良)

「アマナ(甘菜)」は、ユリ科アマナ属の多年草。東北地方南部以西、四国、九州に分布している。 

球根が食用になり、味は甘い。のどの痛み、滋養強壮の薬効もある。 

15~20センチの花茎に通常は1個の花が付く。花被片は6枚で、白色の花で暗紫色の脈がある。

 

「水色の妖精」と呼ばれるヤマエンゴサク

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長野・戸隠高原のヤマエンゴサクの花。2008年4月30日 (撮影:安藤伸良)

「ヤマエンゴサク(山延胡索)」は、ケシ科キケマン属の多年草。本州、四国、九州に分布し、花期は4~5月。山地の樹林地に生え、林内や道端などで見ることができる。 

草丈は10~20センチで、茎頂に美しい青~青紫色の筒型の花を付ける。とんがり帽子のような花の形が独特で、先が唇状、基部は袋状の距(きょ=花の後ろに突き出た中空の角状のもの)になる。 

色と姿から「水色の妖精」と呼ばれることもあるという。「延胡索(えんごさく)」とは痛みやけいれんを和らげる効能がある漢方薬のことで、地下の球根が薬用にされる。

 

黄色がまぶしいヤマブキソウ

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東京・井の頭公園で鮮やかに咲いていたヤマブキソウの花。2015年4月17日 (撮影:安藤伸良)

「ヤマブキソウ(山吹草)」は、ケシ科ヤマブキソウ属の多年草。花期は4~5月で、北海道を除く全国に分布している。 

低木のヤマブキの花に色や形が似ていることが名前の由来。草丈は30~40センチで、上部の葉の腋に直径4~5センチの花弁4枚の黄花をつける。ちなみに、ヤマブキの花は花弁が5枚。

(安藤 伸良)

 

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