企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「水辺や湿地の花」の前編を紹介する。
野の花といえば草地や野山の土に目が行きがちだが、水の近くをじっくり探すと、可憐で個性的な花が意外と多いことに気づく。足元に注意しながら観察してみてください。
- 夏がくれば思い出すミズバショウ
- 日本では珍しいアメリカミズバショウ
- 昆虫のために発熱するザゼンソウ
- 午後2時まで待てない?ヒツジグサ
- ミズバショウの近くで金色に咲くリュウキンカ
- フリル状の花を咲かせるアサザ
夏がくれば思い出すミズバショウ
水辺や湿地の花と言えば、「ミズバショウ」を思い浮かべる方が多いのでは。ミズバショウ(水芭蕉)は、サトイモ科ミズバショウ属の多年草で、日本では北海道と中部地方以北の日本海側に自生している。
花期は5~7月で、花は中央の黄色の肉穂花序(花の集まり)とそれを包むような白い仏炎苞(葉の変形したもの)からできている。肉穂花序には数十から数百の小さな両性花がある。
開花時に臭気があることから、英語では「Asian skunk cabbage(アジアン・スカンク・キャベジ)」と花の美しさと似つかない名前が付けられている。ミズバショウは「夏の思い出」の歌にも出てくる尾瀬ヶ原の湿原が有名だが、筆者が何度か訪れた長野県の奥裾花自然園にも見事な群落がある。
日本では珍しいアメリカミズバショウ
「アメリカミズバショウ」はサトイモ科ミズバショウ属の多年草で、その名の通り、北アメリカの西海岸に分布している。
花期は4~5月で、開花時にミズバショウと同じく臭気があるため、英語では「Western skunk cabbage(ウェンスタン・スカンク・キャベジ)」と言う。
筆者は、先述の長野・奥裾花自然園を訪れるたびに入口近くにある茶店に立ち寄っていたが、2009年に立ち寄った際、すっかり顔なじみになった同店の女将さんから「黄色のミズバショウがあるのを知っているか」と聞かれた。それまでミズバショウの仏炎苞は白色のみと思っていたため、初めは信じられなかった。
当時はまだ10数株しかなく、珍しさから盗掘されないよう場所は非公開。女将さんの孫娘に案内してもらい、実際に見ることができたのは今でも幸運だったと思っている。
昆虫のために発熱するザゼンソウ
「ザゼンソウ(座禅草)」はサトイモ科ザゼンソウ属の多年草。形はミズバショウに似ていて、花の中央にある肉穂花序を包んでいる仏炎苞が紫褐色をしている。
花期は3~5月で、ミズバショウに先駆けて咲く。花粉を運んでくれるハエ、アブを呼び寄せるため、独特の臭気を発することに加え、肉穂花序が発熱して虫に温かい場所を提供する。外の気温が氷点下であっても、肉穂花序の中は温度が20度以上に保たれると言われている。
午後2時まで待てない?ヒツジグサ
「ヒツジグサ(未草)」はスイレン科スイレン属の多年草で、古くから日本全国の池沼に自生している。
未(ひつじ)の刻(午後2時頃)に花が咲くことから名付けられたとされるが、実際には午前中から咲いているものも多い。午後6時頃になると花は閉じる。
花期は6~9月で、水面上に直径約5センチの白色の花を咲かせる。
ミズバショウの近くで金色に咲くリュウキンカ
「リュウキンカ(立金花))は、キンポウゲ科リュウキンカ属の多年草で、日本では主に本州や九州に分布している。ミズバショウの脇に咲いているのをよく見かける。
花期は5~7月。花は鮮黄色で花弁がなく、花弁のように見えるガク片が5枚ある。ガクの真ん中には、無数の雄しべと4~12個の雌しべが存在していて、ぼんぼりのような丸い形を作っている。
北海道などの一部地方では、リュウキンカの若い芽を食べる習慣があるそうで、美味なのだとか。ただし、食べ過ぎると下痢になることがあるため注意が必要という。
フリル状の花を咲かせるアサザ
「アサザ」はリンドウ科アサザ属の多年草で、本州や四国、九州に分布している。
花期は6~8月。葉の脇から数本の花茎を出し、水面上にフリルのような花弁5枚の黄色の花を咲かせる。花は朝開き、昼過ぎには閉じる一日花。
若葉は山菜として食用にもなり「ハナジュンサイ」と呼ばれる。
(安藤 伸良)