【雑学】自然観察指導員の徒然草=植物界のコバンザメ? 独りでは生きられない寄生植物

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東京・野川公園のナンバンキセルの花。2014年8月31日 (撮影:安藤伸良)

企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。 

つれづれなるままに、今回は「寄生植物」を紹介する。 

私たち人間を含む動物、菌類、微生物の多くは他の生物をエサとして食べたり、分解して必要な栄養を得ているため「従属栄養生物」と言う。 

一方、大部分の植物は他の生物に頼らずに自ら栄養を作ることができるため「独立栄養生物」と呼ばれる。 

ただし、植物の中には自ら光合成で栄養を作らず、他の植物に寄生して生きているものがある。寄生植物は4000種ほどあると言われているが、ここでは身近に見られるいくつかを取り上げたい。

 

 

 

サトウキビ畑では嫌われるナンバンギセル

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東京・国立科学博物館附属自然教育園のナンバンギセルの花。2017年9月20日 (撮影:安藤伸良)

「ナンバンギセル(南蛮煙管)」は、ハマウツボ科ナンバンギセル属の一年草。日本全国に広く分布している。 

葉がないため、植物でありながら葉緑素を持たず、光合成で自ら栄養分を生み出せない。そこで、ススキ、ミョウガ、サトウキビ、イネ科の植物などに寄生する。他の植物の根に自らの体を食い込ませ、栄養分をちゃっかりお裾分けしてもらっている。性質上、陸稲やサトウキビの栽培地では大害草としてどうしても嫌われてしまう。

 

花期は7~9月で、約15~20センチの花柄の先端に淡紫色の筒状花を横向きに付ける。花の形から西洋のパイプを連想して「ナンバンキセル」と名付けられた。 

古くから日本にある植物で、万葉集では「思い草」の名前で登場している。恋にもの思う姿にとらえられた呼び名らしい。

 

カワラヨモギ大好き!のハマウツボ

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茨城・国立科学博物館筑波実験植物園のハマウツボの花。2018年6月2日 (撮影:安藤伸良)

「ハマウツボ(浜靫)」は、ハマウツボ科ハマウツボ属の一年草。 

キク科ヨモギ属、特にカワラヨモギに寄生する。カワラヨモギは日本全国の砂地の河原や砂丘に生育するため、ハマウツボも同じような分布になる。 

寄生植物なので葉がなく、花期は5~7月。約10〜25センチの花茎上部に淡紫色の花を穂状に多数付ける。

 

要注意外来生物のヤセウツボ

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東京・新宿御苑のヤセウツボの花。在来種にとっては脅威の存在。2019年4月29日 (撮影:安藤伸良)

「ヤセウツボ(痩靫)」は、ハマウツボ科ハマウツボ属の一年草。欧州や北アフリカ原産で、日本では主に本州、四国に分布している。 

マメ科、キク科、セリ科などの在来種や、牧草などに寄生して生長を抑制してしまう。国立環境研究所の「侵入生物データベース」によると、外来生物法で要注意外来生物に指定されたという。 

花期は5~6月で、約20~40センチの花茎に淡黄褐色の花を付ける。アカツメクサやシロツメクサの群生の中で見られることが多くあり、草むらの中からニョキニョキと出ているために目立つ。

 

栄養半分は自力で生み出すヤドリギ

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青森・十和田湖休屋への旅行中に見かけたヤドリギの実。2017年10月20日 (撮影:安藤伸良)

「ヤドリギ(宿り木)」は、ヤドリギ科ヤドリギ属の常緑小低木。日本全国に分布している。         

エノキ、ケヤキ、ブナなど落葉広葉樹の幹に根を食い込ませて養分や水分を奪って成長するが、これまでの3種と違って自らも光合成を行う「半寄生木」である。樹木の上の方に丸く鳥の巣のような形状で寄生している。 

花期は2~3月で、黄色の小花が咲く。果実は球形で淡黄色に熟し、粘液質で鳥のくちばしに付いて運ばれたり、鳥の糞と一緒に排泄されて樹木の枝に付くことで広がっている。 

万葉集には神聖な植物として「ほよ」の名前で登場しており、欧米でも「ヤドリギの下でキスをすると永遠に結ばれる」という言い伝えがある。寄生しているが自力でも頑張っているから?世界で愛されているようだ。

(安藤 伸良)

 

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