07年大会以来3度目の優勝を目指す南アフリカは、ウェールズとの通算成績は35試合中29勝と優位だが、直近の4試合は4連敗中。不利な状況ではあるが、準々決勝で日本代表を破っており、日本のファンの注目も集まる一戦だ。
準決勝を前に、観戦時に「知ったか」できる南アフリカの近況をお届け。
壮絶人生!1日10キロ歩いた快速男
現在、今大会最多タイの5トライを挙げているWTBマカゾレ・マピンピ(Makazole Mapimpi)は、代表選手になるまでには壮絶な人生を送ってきた。英タブロイド紙の「デイリー・エクスプレス」が伝えた。
マピンピは南ア・東ケープ州の貧しい地域出身。母は交通事故、姉(妹)は脳の病気、兄(弟)は電線を盗もうとして感電死した。
「母も姉も、僕がラグビーをすることに反対していた。何も得るものはないと思っていたんだ。ラグビーではなく、進学か仕事だと言っていた。もちろん、彼女たちが目の前にいないことはいいことじゃないけれど、いないことが僕を強くしたし、ここにいることが神様の思し召しだと感じるようになったんだ」と振り返った。
29歳、シャークス所属のスピードスター・マピンピの代表デビューは遅く、1年半前のウェールズ戦。それ以降、国際試合12試合で13トライの活躍を演じている。
南アの攻撃コーチ、Mzwandile Stickは「彼は東ケープ州のTsholomnqaという地方の出身。子どもの頃は学校まで1日10キロ歩いていた。田舎ではラグビーボールを蹴ると、コーチにグラウンドから出される。キックは禁止。走って、キャッチするしかない。それがすべてなんだ」と快速男となった要因を説明した。
さらに「だから彼は、キックや空中戦のスキルが必要な試合に出ていなかった。我々は昨年合宿に呼んで、彼のプレースタイルを改善する最大限のサポートをしたいと思った。今のマコゾレには満足している。まだ改善の余地はあるけれど、周りの選手と一緒にもっと成長すると思う。若者にとってはいい話だ。バックグラウンドに関係なく、一生懸命努力すればチャンスはやってくる。その準備を怠らないことだ」と、将来を担う若者にメッセージを送っている。
守備力は陸軍時代からの盟友タッグで
今大会における南ア代表の強みは、強固なディフェンスも1つ。今大会わずか3トライしか相手に許さず、準々決勝・日本戦はボールポゼッションでは日本が上だったもののノートライに抑え込み、26-3で勝利した。海外メディア「Sports24」が伝えている。
鉄壁守備を支える守備コーチのJacques Nienaberとラッシー・エラスムスHCとの関係は長い。
Nienaberコーチは南ア・フリーステート州で理学療法士としてラグビー界での仕事を始めた。当時エラスムスHCはまだ現役選手だった。その後、Nienaberはストレングス&コンディショニングコーチとなり、守備コーチに転身した。
Nienaberはキャリアの大半をエラスムスHCとともに過ごし、ストーマーズからマンスターへ移籍するときも一緒だった。
しかし10月24日、NienaberコーチはエラスムスHCとの関係はもっと古いことを明かした。
Nienaberコーチは「私たちが会ったのはかなり昔、一緒に陸軍にいた時。陸軍では仲が深まるからね。陸軍で彼は私よりもかなり優秀な戦術家だったんだ。それから私たちは一緒に大学に進んだ。私が理学療法士で、彼が大学チームのキャプテンの時に再会した」と若き日を回想した。
さらに「私たちは長年の友人だが、いつも言っているように、決断について議論する時は意見が一致しないこともあるし、お互いに怒ることもある。でも、決して個人的なことではない。常にチームを強くするため。その意味で私たちはいい関係を築いてきた。私たちは友人であり、ラッシーは私のボス。一緒に飲むこともあるけど、ラグビーについてエゴはないよ」と、仕事上も信頼しあっていることを明かしていた。
数字で読み解くウェールズ戦
南アのW杯準決勝進出は5回目。これを上回るのは、今大会を含めニュージーランド(8回)、豪州(6回)、フランス(6回)の3カ国だ。
ウェールズと南アは、過去35回対戦。最近の4戦はいずれもウェールズの勝利。それ以前は南ア29勝、ウェールズ2勝だった。
一方、W杯では南アがウェールズに2連勝中。いずれも15年大会で、予選プールでは17-16、準々決勝では23-19のスコアで勝利した。
ちなみに、W杯史上、大会中に予選プールを含め1試合でも負けたチームは優勝したことがない。南アフリカは予選プールでニュージーランドに敗れている。
現代表のうち8人が、15年W杯準々決勝ウェールズ戦で先発。
南アのWTBマカゾレ・マピンピ、ウェールズのジョシュ・アダムズ、日本の松島幸太朗が今大会5トライでトップタイに並んでいる。マピンピの1大会5トライを上回る過去の南ア選手は、07年大会のブライアン・ハバナ(Bryan Habana)の7トライのみ。
マピンピは国際試合12試合で13トライを挙げ、うち9トライを2019年に記録。これは松島と並ぶ最多タイ記録。
CTBダミアン・デアリエンディ(Damian de Allende)は南アのW杯史上Jaque Fourieの13試合に続いて2番目に多い11試合目の先発出場となる。
主審にざわつき…相性が悪い?
準決勝の主審が発表され、南アメディアや南アサポーターがざわついている。海外メディア「Sports24」が伝えている。
主審を務めるフランス出身のJerome Garces審判と南ア代表の相性が悪い。「sport24」によると、これまでGarces審判が主審を務めた南ア代表戦は13年から14試合あり、南アが勝利した試合はわずかに4試合。勝率29%しかない。
NZ代表との全6試合は全敗で、15年W杯でまさかの敗北を喫した日本戦でも同審判だった。同審判が主審だった唯一のウェールズ戦(17年)も22-24で敗れているだけに、南ア関係者が戦々恐々とするのも無理はない。