年末年始だけはちょっとぜいたくにおいしいものを食べたいもの。
ぜいたくな食材と言えば、秋の味覚・マツタケもその1つ。香り豊かで、かなりの高級品だ。
しかし、身近なしいたけ、えのきだけと同じキノコなのになぜマツタケは高額なのか?
文献に総当たりする「ガチで調べたトリビア」シリーズ、マツタケ編最終回は“格安”マツタケの未来について。
マツタケの未来を背負う「バカマツタケ」
戦後のガス普及、マツ枯れなどによりマツタケの獲れ高は激減した。
最大の要因として考えられていたのが、マツタケは人工栽培できないことだった。
しかし、その現実は変わりつつある。
なんと2018年2月、奈良県森林技術センターが、食用キノコの人工栽培に成功したのだ。
その名も「バカマツタケ」。
見た目や味はマツタケとほぼ同じで、香りはマツタケよりも強い。
マツタケの香りが大好きな人にとってはたまらない一品にも関わらず、なぜかバカ呼ばわり。
というのも、通常マツタケはアカマツの根元に生えるが、バカマツタケは、やや早い時期に広葉樹の根元に生えてしまうため、マツに育つ「茸」ではなくなってしまう少々ウッカリな一面を持つからだ。
本家のマツタケより優れた部分があるにも関わらず、バカ呼ばわりされてしまうのには同情してしまうが、マツタケの定義を根幹から揺るがしかねない問題だから仕方あるまい。
バカマツタケはバカにできない
最初の人工栽培は、人工培養の菌を自然にある樹木に植え付けて発生させた。
それをさらに進化させる成功を成し遂げたのが、兵庫県の肥料メーカー・多木化学だ。
2018年10月、木クズなどによる人工培地(菌床)で、培養から生育までを室内環境で完結させたのだ。
今までに人工栽培に成功し、市場の流通量も多いシイタケやエノキタケ、ナメコ、ブナシメジなどは腐生菌類と言い、朽ちた樹木など生きていない有機物素材を栄養源とするキノコだ。
そのため、菌床栽培は比較的簡単だったが、マツタケは生きた植物と共生する菌根菌類と呼ぶキノコ。
菌根菌類は生きている植物から栄養をもらうことが不可欠と考えられ、完全人工栽培は困難だとされてきたものを成功させたのだ。
菌床栽培なら、植物と共生させないため培養期間が短く、室内の環境を調整することで季節を問わず生産が可能になる。また室内栽培だから虫の被害にも合わないし、収穫も簡単になる。
前述した、マツタケ生産量激減の要因をすべて解決している「バカマツタケ」、バカにはできん。
マツタケ トリュフが普通のキノコになる時
どれほどの歴史的発明なのか、まだ実感できない人には。
世界三大珍味で高級食品として扱われるトリュフ、それが家でエノキみたいに食べられるようになっちゃうかも。
と聞いたら食にこだわりのない人でも、世界がガラッと変わるような感覚を覚えるだろう。
マツタケ類、トリュフだけでなく、ポルチーニやホンシメジ、タマゴタケなど高級キノコは全て菌根菌類なのだ。
つまり「バカマツタケ」は、高級キノコを普通のキノコにする先駆者として、菌根菌類、引いては高級キノコ好きな食通たちの未来を照らしてくれているのだ。
2020年7月31日現在、多木化学によると、栽培成績は着実に向上しているものの、生産安定性や生産コストなどの問題を抱えており、目標としていた令和3年度中の商業販売の開始が遅れる見込みだとか。
第一人者に苦労は付き物だが、事業化した暁には日本中に大きな喜びをもたらしてくれることだろう。
よし、バカマツタケの濃ゆい香りを楽しみに、エノキでも食べて待つことにしよう。
(おわり=mimiyori 編集部)