企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「冬の花」の前編。
冬の季節には花を咲かせる樹木や草本の数が減るが、注意深く観察していると意外と多くの花を見つけることができる。
民間療法に活用されてきた「ビワ」
冬の季節(12~2月)は花粉を媒介してくれる昆虫が少なく、寒さや乾燥に見舞われる。植物にとっては条件が悪いはずなのに、どうして花を咲かせるのだろうか。
他の樹木や草本で花を咲かせている競争相手が少ないことから、数は少ないものの低温でも活動できるハエやアブを花粉の媒介者に誘引できることが考えられる。
また、最近の傾向としては、秋の花が冬にずれ込んだり、春の花が冬に咲いたりするなど温暖化が影響していると思われる。
開花時期が11~2月の「ビワ(枇杷)」は、バラ科ビワ属の常緑樹。中国原産との説があるが、日本の奈良時代の書物には、すでにビワの記述がある。国内では西日本の一部に自生している。
芳香のある直径約1センチの白花を多数付け、花弁の下部やガク片に褐色の綿毛を密生する。
翌年の5~6月になると黄褐色に熟す約3~4センチの果実は食用になる。葉は打ち身や捻挫、種子は咳止めや去痰に効き、古くから民間療法に利用されてきたという。
日本人に愛される「チャノキ」
「チャノキ(茶の木)」はツバキ科ツバキ属の常緑低木。煎茶やほうじ茶の原料となり、12世紀末に僧栄西がタネを中国から持ち帰ったとされる。お茶を常飲する私たち日本人にとっては最も関わりの深い樹木といえよう。
花期は10~12月上旬。直系約2.5センチの白花が下向きに咲き、雄しべの黄色が目立つ。毒針を持つチャドクガ(茶毒蛾)の幼虫が付くことが多いため、かぶれないように注意してください。
「ロウバイ」の香りが人気
「ロウバイ(蠟梅)」はロウバイ科ロウバイ属の落葉低木で、江戸時代初期に中国より渡来した。
花期は1~2月、芳香のある半透明の黄色の花を咲かせる。花の中心部は赤紫色、花の外側には鱗片状の花被片が多数ある。ほんのり甘くフルーティーで、石けんのような香りが特徴。
「ソシンロウバイ」はロウバイより花がやや大きく、花の内部も黄色。美しい花と香りで人気が高い。
「マンサク」は稲の作柄を占った?
「マンサク(満作)」は、マンサク科マンサク属の落葉樹。
名前の由来は、早春に他の樹木に先駆けて咲く(まず咲く)、または、枝いっぱいに花を付ける(豊年満作)から、と言われている。また、花がよく咲けば豊作、花が少なければ不作など、稲の作柄を占う植物として古くから人とのつながりがあったとか。
花期は2~3月。花弁は4枚で細長い線形の黄色、雄しべの先端の葯(やく)は暗赤色の独特の形をしている。
「シナマンサク」はマンサクよりやや花が大きく、落葉樹に関わらず枯れ葉が花の時期まで残っているのが特色。
「冬のバラ」とも称される「ヤブツバキ」
「ヤブツバキ(藪椿)」はツバキ科ツバキ属の日本固有の常緑樹で、別名は「ツバキ」や「ヤマツバキ」。北海道を除く日本各地の沿海地や山地に自生している。
花期は2~4月。赤色の花が枝先に1個ずつ咲き、稀に淡紅色や白色の花が咲く。花弁は5枚で雄しべは多数あるが、下部は合着して筒状になっている。これは花粉を媒介してくれるヒヨドリやメジロが蜜を舐めるために頭を入れた際に花粉が顔に付くよう進化したものと言われている。
欧州では「冬のバラ」とも称される。花には滋養強壮、健胃、整腸の薬効があるという。
早春の伊豆を彩る「カワヅザクラ」
「カワヅザクラ(河津桜)」は、昭和30年頃に静岡県河津町で野生の原木が発見された。「カンヒザクラ」と「オオシマザクラ」の自然交雑種ではないかといわれている。筆者も実際に原木を見に行ったことがある。
花期は2~3月。花はピンク色で縁の色が濃い。伊豆半島の河津町では川沿いに並木があり、花の時期には多くの観光客が訪れる。
(安藤 伸良)