企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「お金のなる木」を紹介する。
大判小判がざっくざく、ではなく、実際になるのは赤い小粒の実。いずれも「庭に植えておくとお金持ちになる」という、ありがたい言い伝えのある縁起物です。
赤い実2個で「一両」
「アリドウシ」は別名「一両」。アカネ科アリドウシ属で、関東地方以西の本州、四国、九州、沖縄に分布する。
樹高は約20~60センチ、葉のわきに一対の細長いトゲがある。4~5月頃になると葉のわきに白い花を2個ずつ付ける。果実は約5ミリの球形で2個ずつ付き、11~1月に赤く熟す。
冬でも葉が青々としていて、真っ赤な実をつけることから、縁起のよい植物とされる。大阪の商家などでは、後述する「センリョウ」や「マンリョウ」とともに並べて「千両、万両、有り通し!」のダジャレから商売繁盛のゲンを担ぎ、正月の床飾りなどにしてきた。
1鉢1千万円超だった「十両」
「ヤブコウジ」の別名は「十両」。サクラソウ科ヤブコウジ属で、日本各地に分布している。
樹高は約10~20センチ、7~8月頃に白い花を数個、下向きに付ける。実は5~6ミリの球形で10~11月の秋になると赤く熟す。
ヤブコウジは『万葉集』にも山橘(ヤマタチバナ)の名で詠まれ、古くから日本人に愛されてきた。江戸時代、特に寛政年間には葉に斑(ふ)が入るものや実が白いものなどが好事家の間で人気を呼び、多くの品種がつくられた。
その後、明治20年頃から新潟県で再び流行し、全国にブームが広がった。投機の対象として、生産者や趣味家だけではなく一般市民も巻き込み、現在の価格で1鉢1000万円を超える高値での取引まであったという。
江戸時代に“高値の花”だった「百両」
「カラタチバナ」は別名が「百両」。サクラソウ科ヤブコウジ属で日本各地に分布している。
樹高は約20~70センチで、7月頃に白い花を葉のわきに10個ほど付ける。赤い実は6~7ミリの球形で、11月頃に赤く熟す。
カラタチバナもヤブコウジと同様に、江戸時代に流行。高値で取引されて「百両金」とも呼ばれたそう。これがきっかけとなり、他の赤い実の植物も「一両」「万両」などと呼ばれるようになったとされる。実の数が少ない木から多い木へ、一両から万両の名前が付けられたと言われている。
花言葉まで豊かな「千両」
「センリョウ(千両)」はセンリョウ科センリョウ属で、日本では東海地方以西の本州、四国、九州に分布している。
樹高は約50センチ~1メートルで、6~7月頃になると枝先に小花を多数付ける。実は5~7ミリの球形で、12~3月に赤く熟す。実が黄色の「キミノセンリョウ」もある。
たくさんの実をつけることから、花言葉は「利益」「裕福」「富」「財産」など。マンリョウと並んで正月飾りに欠かせない縁起木の1つといえる。
最も縁起がよい「万両」
「マンリョウ(万両)」はサクラソウ科ヤブコウジ属で、日本各地に分布している。
樹高は約30センチ~1メートル、7~8月頃に枝先に白い花を10数個付ける。実は6~8ミリの球形で、11月頃になると葉の下に鈴なりに赤く熟す。
実の付き方と数の多さが、葉の上に実が付くセンリョウとの見分け方。他にも、黄色の実の「キミノマンリョウ」、白い実の「シロミノマンリョウ」などがある。
ちなみ、筆者の拙宅にはセンリョウとマンリョウを植えているが、果実はすべて鳥に食べられてしまった。ご利益のほどは……ご想像にお任せします。
(安藤 伸良)