企業戦士として働き尽くした会社を定年退職後、一念発起で転身した自然観察指導員の写真コラム。
つれづれなるままに、今回は「バラ(薔薇)」の後編。
世界の各国が美を競うように作出してきた色とりどりの園芸種を中編に引き続き紹介する。
米国代表は「ミスター大統領」と「二重の喜び」
米国産の「ミスター・リンカーン」は、第16代アメリカ合衆国大統領「エイブラハム・リンカーン」の名を冠したバラ。美しい真紅の花色で、秋になると一段と深まり、黒赤色になる。同じ交配親を持つ「パパメイアン」「オクラホマ」とともに「黒赤ばらの名花3兄弟」に数えられているという。
花には強いダマスク香があり、太枝性で濃緑色の葉が密に茂る。樹勢が強く、半直立状にしっかりと育つため、庭植え用としても優秀。
1977年に米国で作出された「ダブル・デライト」は、花の大きさが12センチほど。クリームがかった白い花びらの端に鮮やかな赤色が広がっている。花が開くにつれ、赤みは増していく。花色は、気温や日照に影響されるという。
丸弁カップ咲きの花型で、花びらの数は約40枚。フルーティーな香りがある。「デライト(delight)」は、英語で「幸福、喜び」の意。花名の「ダブル・デライト」は、花の美しさと香りのよさにちなんで、「二重の喜び」という意味で名づけられたとされる。
77年に米国のバラコンテストAARS賞、85年に世界バラ会連合で殿堂入りを果たすなど、受賞の多い世界的名花の1つ。
英国代表は「日英の妃殿下」
1966年に英国で作出された「プリンセス・ミチコ」は、美智子上皇后陛下が皇太子妃時代に、同国のディクソン社から贈られたバラとして知られている。
当時のバラ界では、世界的に朱色の美しさが追求されていた。その中でも、濃い緑の葉と鮮やかなオレンジ色のコントラストが際立ち、可憐な花容をもつ最高傑作とされるこの英国産バラが、美智子様に献呈された。
花は半八重咲き。花色は初め黄色みを帯びたオレンジ色で、開花にしたがって赤みを増し、オレンジ色になる。多くのバラ園で植栽され、鉢植えやプランターにも適している。
バラの本場と言えば英国。ロンドンのリージェンツ・パーク(Regent’s Park)内にあるバラ園では、広い敷地に美しい園芸種のバラが数多く栽培されている。
筆者は1990年代後半の数年間に会社員としてロンドンに駐在し、同園を度々訪れては珍しいバラの花を楽しんできた。
残念ながら皆さんにお見せできる当時の写真は残っていないが、目の覚めるような黄色の「アイ・オープナー(Eye Opener)、真紅の「イングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)」、そして純白の「プリンセス・オブ・ウェールズ(Princess of Wales)」が印象に残っている。
帰国後、「プリンセス・オブ・ウェールズ」は新潟県長岡市の国営越後丘陵公園で見つけ、撮影することができた。
英国で作出されたこのバラは、チャールズ皇太子と離婚後に交通事故で亡くなったダイアナ元妃に捧げられた。花つき、花持ちがよく、最後まで花形が崩れにくいバラで、苗木の売上の一部は英国肺病基金に寄付されているという。
ダイアナさんにふさわしい美しい花だと思いませんか?
(安藤 伸良)